第十四話 少年は嬉しい再会を果たす
「本当に見回りって効果あるのかなあ」
町の外、花屋敷への道を歩きながら、僕はつぶやく。
『おう、おう、今、鑑賞には効果があるって言ったね!わかるよ!俺はもう言語がわからなかった過去の俺とは全く違うからね!』
ニコニコとテンション高めで言う悪魔に僕は親切にも間違いを指摘する。
(今言ったのは、本当に見回りには効果あるのか?だな)
『くっ、少々間違えていたか...』
悪魔もやっと言語が少しわかるようになった。
もう翻訳をしなくてもいいと考えると嬉しい。まあ、翻訳がいらなくなるのはまだ時間がかかりそうだが。
(俺が町に来るちょっと前くらいから花屋敷での変な光景も目撃されなくなったらしいし、正直見回りしなくてもいい気がするんだ)
『でも見回りしてるっていう事実が牽制にもなるしな。もしかしたら、今日は屋敷に誰かい...』
悪魔はそこで言葉を切る。僕は不自然に思って悪魔を見た。
『いる。花屋敷に大勢の人がいる』
それを聞いた瞬間僕は走り出した。
『っおい、先ゴードンに報告した方が』
(状況がろくにわからないところで報告しても意味がない!この近くに人がいるか?)
『ちょっと先に』
(じゃあ、その人にゴードンに来てもらうよう伝えてもらう。僕は花屋敷へ行く)
今日は見回りの前に仕事があったから、後数時間で日没だ。全速力で走る。
『わかったよ。でもあのオーラどっかで...』
(とりあえず、今はどうなってる?)
花屋敷まであと少しというところまで来た僕は息を切らしながら悪魔に問う。
『...』
(おい!)
『ああ、ごめん...今はざっと7人の男がいる。屋敷の地下に5人。地上で見張っているのが2人。おっけー?ではゴードンを呼んでこよう!』
(いや、この目で見たい)
『状況は俺が一応わかってるし、いち早くゴードンに伝えた方が』
(お前を信用していない訳じゃないが、オーラだけじゃわかんないこともあるだろう?)
『...わかったよ。東から回り込もう。それで1階にいる見張りを見たら町に戻ろう』
(了解)
僕は東から大きく回り込み、東側の壊れきった窓から中に侵入する。
悪魔の指示通り廊下から顔をこっそりのぞかせる。ランプを持った30代くらいの武装した男の後ろ姿が見えた。
すばやく顔を引っ込める。
ある程度確認は出来たし、このまま帰るべきか、そう考えていたとき、男のつぶやきが聞こえた。
「ちっ、俺ばっかに面倒ごとをおしつけやがって」
知っている。
僕はこの声を知っている。
(こいつ、見張りだ!)
『え、うん、さっきからそう言ってるじゃん』
(違う。そういうことじゃなくて、あいつ村で盗賊に捕まったとき俺の見張りをしてたやつだよ)
『え、いや、そんなわけ......でも確かにこんなオーラしてた、かも。だから見覚えがあったのか』
(もしかして、ここにいるやつってあのときの盗賊の残党じゃないのか?)
『そんなことありえるのか?どうしてやつらここにいるんだよ?』
(...元々ここを盗賊の奴らが使っていたっていう可能性はないか?ほら、ここで人が目撃されなくなったのも俺が町に来るちょっと前、つまり盗賊の大勢がゴードンに捕まってからだ)
『それは...ありえるかもな』
僕は少し笑みを浮かべる。あのとき逃がしてしまった全員をとっ捕まえることができるチャンスを掴めるとはなんと幸運なのだ。
『っ待ってこっちの部屋に来る』
僕はそれを聞いた瞬間となりの部屋につながっているドアにとびつく。
僕がそのドアから隣の部屋に行くのと同時にさっきまでいた部屋に男が踏み込む。
何か隠れそうなものは...
あれだ。
僕は倒れた石像の陰に隠れた。
息を潜める。
「ちっ、なんか聞こえた気がしたんだけどな」
男がそう言って離れていく。
(いいか?)
『ああ、去った』
一息をつく。
石像に手をかけて立ち上がる。
(...神の像?)
ふと石像を見て、驚く。杖と作物を両手に持つ像、間違いなく神の像だ。
こんなところになぜあるのだろう。
そう思って、その像をよく見る。
?台座の裏に何か刻まれている。
目をこらして、その文字を読み取る。
イタイ ツライ イヤタ ヤメテ モウムリ ニゲダ タスゲテ オカアサン ドウスレハ ゴメンナサイ ワタシガワルイ ニゲタイ オネエヂャン オネガイ タスケテ...
思わず、そこから離れる。
これはかなり字が汚い。あわてて書いたのか?いや、それにしても...これは子供の字だ。
びっしりと書かれている怨嗟の文字。
俺は咄嗟に悪魔に質問する。
(ここに、もしかして子供がいたり...しないよな?)
悪魔の目を見つめる。
『...早くゴードンを呼びに行こう』
悪魔は目をそらした。
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