第9話 プールのお誘い!?

 神社から帰る途中、モールに寄って食材を買ったので、マンションに着いた頃には夕方になっていた。


「今からご飯作りますね」


 由奈は買ったばかりの水色のエプロンをつけてキッチンに立った。トントントントンとテンポよく包丁がまな板を叩く音が聞こえてくる。


 それにしても、山川先輩の神社だったのか。と言うか山川先輩が巫女さんと言うのも驚いた。あれで巫女か……。朝の光景が思い出されて頭が痛くなった。


 それにしても俺は由奈と距離を取るべきなのだろうか。このまま一緒にいればいずれは惹かれていく……。それは由奈の望むところではないだろう。だが、暫くは大丈夫と確約はもらえた。


「じゃあ、いいか……」


「どうしましたか?」


 由奈が不思議そうにこっちを見てくる。


「なんでもないよ」


「そうですか」


 それにしても本当に幽霊なんだよな。幽霊ならエッチをしたらやばいと言うことはわかる。分かっていても女の子と付き合ったことがないから、由奈と一緒にいると変に意識してしまう。そういや……。


「今日からは俺のベッド使っていいぞ」


「そんなの悪いですよ」


「客が来た用に布団も用意してあるからさ」


「じゃあ、わたしがそっちに寝ますね」


「いいよ、いいよ。俺が布団で寝るから、ベッドは使っていいよ」


「気にしてもらわなくても大丈夫ですよ。わたし幽霊ですから」


「幽霊より前にお前は女の子だ。俺が気になるから、ベッド使ってくれよ」


「まあ、そこまで言うのでしたら……」


 それにしても布団を用意していてよかった。もし、ベッドに二人きりで寝ることになったら、俺も男だし我慢できる自信がなかった。


「明日はどうするかな」


 明日も大学は休みだ。休みの日にバイトを入れるのは面倒なので、基本入れていなかった。


「どうしましょうか?」


 コンロに火をつけたのかぐつぐつと水が煮える音が聞こえてきた。


 由奈のルーツを探すべきだが、もうすぐ夏休みだしなあ。今はそんなことよりも、由奈と一緒にいたかった。俺がそう思って由奈の後ろ姿をぼーっと見ていると、突然スマホが鳴る。


「おわぁっ」


 予想してなかったから、椅子から転げ落ちそうになった。スマホを取り上げて見ると雅人と名前が表示されていた。


「もしもし、どうしたよ」


「お前、明日暇か?」


 何故、突然暇かなどと聞いてくるのかと思いつつも、俺はチラッと由奈を見た。


「別に用事はないけどな」


「じゃあ、付き合ってくれないか?」


「どこに行くんだ?」


「いや、そのな……」


 雅人にしては、えらく歯切れが悪かった。


「一緒にプール行かないか」


「はあ、男だけでか?」


「まさかよ、俺にそんな趣味はねえよ」


 こいつに限ってあるわけがないか。


「どう言うことだ」


「いやさ、由美から明日プールに行かないかって誘われてさ」


「良かったじゃん。で、どうして俺が誘われるんだ」


「俺さ、実はこう見えてデートの経験なくてさ……、できれば初めは二人きりじゃない方が失敗が少ないと思ってな」


 意外だな。イケメンのこいつがデート経験ほとんどゼロとは思わなかった。


「一人でプールに行って、お前たちがイチャイチャするところを一人寂しく眺めていろと?」


「いや、お前も相手いるだろ」


「えっ!?」


 俺は思わずキッチンで料理をしている由奈の方を見た。


「お前、今日、可愛い娘と一緒にデートしてたじゃん?」


「何故!?」


「いやさ、夕方モール行ったらさ。偶然、見てしまったんだよ。お前がとびっきりの美少女と一緒に歩いてるところをさ。声をかけようと思ったが、あまりに仲良さそうだったから声かけられなくてさ」


「俺がそんなにモテると思うか?」


「だからこそ、問い詰めたかったんだけどよ。でも、今はそんなことより、ダブルデートして欲しくってさ」


「俺が彼女をダブルデートに誘えと」


「お願いだ、頼むよ。緊張したら何話したらいいか分かんねえよ」


 意外なこともあるもんだ。あんなにチャラチャラしてる雅人が緊張するなんてな。まあ、それだけ由美のことが、本気なんだろう。


「分かったよ。確認して、後でライン送るわ」


 流石にここで由奈に聞くわけには行かない。同棲してるのがバレバレだ。しかも、雅人の中では幽霊と謎の美少女は繋がってなかった。


 なら、自己紹介がてら、ちょうどいいかもしれない。俺はスマホを切るとキッチンに向かった。


「なあ、由奈さん?」


 目の前には唐揚げと味噌汁が出来ていた。本当に由奈は料理が上手いな。


「どうしましたか?」


 由奈が俺の方を振り向く。


「明日さ、プールに行かないか? いや、雅人に誘われたんだけどな」


「えと、それって……」


 由奈は瞳を輝かせて俺を見る。


「デートじゃないぞ人助けだ」


「デートじゃないのですか……」


 デートじゃないぞという言葉を聞いて、由奈はすごく寂しそうな表情をした。気持ちは分かるけど、神主も言ってたように本気で好きになるのはヤバいんだって。それにしても憂いを帯びた表情も可愛すぎる。俺は由奈の挑発にいつまで耐えられるのだろうか。




◇◇◇



「おいしかったよ」


「よかったです!」


 本当に由奈は料理がうまい。本人は覚えていないようだが、日常的に食事を作ってきたのだろう。派手な料理ではないが、食べてみるとこれは、と驚かされる。


「それにしても……」


 結局、俺がベッドに寝て、由奈が布団に寝ることになった。この件に関しては由奈は一歩も引かなかったのだ。


「居候の身で、ご主人様のベッドを取るわけにはいきません」


「ご主人様?」


「はい!!」


 真剣な表情とは裏腹にその言葉は凄くエッチだった。最終的に俺が折れることになったのだが。


  本気で落ち着かない。


 すぐ隣に由奈が寝ていると思うとそれだけで心臓が破裂しそうだ。


「なんか新婚みたいですね」


「いや、違うだろ」


「違いますか?」


「ああ」


 新婚なら一緒に寝るだろ……。だが、もしそんなこと言ったら、俺のベッドに潜り込んできそうだ。寝たふりをしておこう。

 

 本気で寝れない。由奈は寝たのだろうか。年齢イコール彼女いない歴の俺にとって幽霊とは言っても美少女と同じ部屋で寝るなんて、初めての経験だ。本当に大丈夫かな、俺。


 そう思いながら、初めてのデート(仮)に疲れたのかやがて深い眠りに落ちていった。




◇◇◇




次はプールです!

本題はまだかと言うお声が聞こえそうですがね。こう言うお話もユナのルーツを探るきっかけになっていくでしょう?


いつも読んでいただきありがとうございます。

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