第11話 幽霊魔法少女ゆな!?

「痛くないですか?」


 頬に手を当てると大きく腫れていた。かなり強く殴られたんだな。ここまで腫れてると一度病院に行った方がいいかな。でも、そうなると色々説明しないとならなくなる。傷害事件になったら、警察が介入してくるだろう。色々と問い詰められたら、由奈のことも説明しないとならなくなる。幽霊だって言っても信じてくれそうにないし、由奈も暴力を振るったとなると色々と話が面倒になる。やはり、行かないほうがいいよな。


「大丈夫だよ」


 俺は由奈に嘘をついた。かなり腫れてて頭もくらくらしてきた。これはやばいな。由奈も心配そうな表情で俺を見ている。


「嘘です、これだけ殴られて痛くないわけがないです」 


 由奈の手が俺の頬に触れられる。冷たくて気持ちいいな。この手に触れられてると痛みも和らいできそうだ。


「……ヒーリング」


「へっ!?」


 由奈の手が淡い光を放つ。右手に触れられてると不思議と痛みが和らいでいく。これってファンタジーかなんかでよく見る治癒魔法じゃねえのか。


「終わりました」


 傷のあったところに手を当てると腫れが完全にひいており、切れていた唇はいつの間にか治っていた。


「由奈、……何をしたんだ」


「分かりません。ただ、手を触れると治せそうな気がしました」


「ヒーリングって言ってなかった?」


「そう言えば治せると思ったのです」


「驚いたよ」


 俺は手鏡を由奈から借りて怪我のあったところを確認した。あれだけ強く殴られたのに傷痕すら見つからなかった。僅かに触れるだけで相手を吹き飛ばしたり、突風を巻き起こしたり、何の道具も使わずに傷を治してしまう。


 これじゃあ、魔法使いじゃねえか。


「由奈、昔、魔法少女だった記憶とかないか?」


「魔法少女ですか?」


「うん、アニメとかで出てくる女の子」


「そうですねえ。参考に見せてくれたら思い出すかも!!」


 由奈は目を輝かせて俺を見た。神主は小さなことからルーツを辿れと言った。生前のことが全く思い出せない今、由奈が使った魔法を調べることが、もしかしたら思い出すきっかけになるかもしれない。


「そうだなあ、例えばこんな女の子とか」


 俺はカバンからスマホを取り出し、由奈に見せた。


「魔法使いまどか!?」


「例えばこんなアニメみたいなとかさ」


「思い出しました」


「おおっ、思い出したか!」


「はいっ、こんなかわいい格好のアニメを子供の時に見ていました」


 由奈さん、それはただの幼少期の思い出だよ。それはきっと、プリキュ……いやなんでもない。


「でも、きっとこのアニメ見たら思い出すかもしれません!」


 本当かよ……。凄く嬉しそうに目を輝かせてるが、ルーツを探るというよりは、ただアニメが見たいだけじゃねえのか。


「分かった、分かった。アマプラなら見れると思うから、帰ったら見てみようか」


「はいっ!!」


 由奈は嬉しそうにニッコリと微笑んだ。


「……どうなってるんだよ」


 頭からつま先までぐしょぐしょに濡れた男3人がプールから上がってくるのが見えた。由奈の方を見ると、険しい表情で3人を睨みつけていた。


「由奈、やめとけ」


「でも……」


 強すぎる力は人を不幸にする。しかも由奈が使った能力を見たら多くの人は怖がるだろう。場合によっては警察沙汰になるかもしれない。


「うわっ、すみませんでした!!」


 3人の男達は由奈を見た瞬間、逃げ出した。まあ、俺も関わりたくなかったので逃げてくれたのは好都合だったのだが……。


 プールを見ると突然の飛び込みに、みんな驚いていたが、足でも踏み外したんだろうと納得したのか、笑い声が戻っていた。


「良かった……」


「良かった……ですか?」


 由奈は不思議そうに俺を見た。


「さっきの騒動、誰にも見られてないみたいだ」


「それは良かったです。それより、その……似合ってますか?」


 びっくりしてたから気が付かなかったが由奈の水着は凄くエロかった。


「うん、凄く似合ってる」


 俺は胸から太ももにかけてじっと見る。てか、むっちゃエロくないですか。そりゃ、こんな美少女がこんなエロい水着着てたらナンパされるわな。


「たっくんが無事で良かったです」


 由奈は俺にもう一度抱きついた。うわ、まじでこれはやばい。胸の柔らかさが布ごしに伝わってくる。下腹部がやばい。俺は由奈から慌てて離れた。


「どうしましたか?」


「どうもしてないから……」


 由奈の視線は俺の下腹部をじっと見つめる。水着しか履いてないから下腹部が元気になってることははっきりと分かるだろう。鎮まれ鎮まれえ……。なんか印籠がでてきそうだが、俺は呪文を唱えることにより、元気になっていたあれを鎮めることに成功した。


「あれえ、だんだん萎んでいきますよ!」


 いや、由奈は観察しなくていいからな。それでなくてもやばいんだから……。そんなことを考えてると後ろから声がした。


「おっ、拓人、今日はよろしくな」


 振り返るとそこには水着姿の雅人がいた。


「ああ、こいつが朝早く起こしてきたからな」


「えっ!?」


「いや、なんでもない」


 あぶないあぶない雅人は俺から視線を外すと隣に立つ由奈を見た。


「初めまして、拓人の友人の雅人と言います。本日は無理言ってすみません」


「いえ、わたしの方こそ誘ってくれてありがとうございます」


 拓人は由奈と簡単な挨拶を済ませると俺を見た。


「てか、拓人の彼女無茶苦茶可愛いじゃん。しかも朝起こしに来たって、お前ら同棲してるのかよ」


 やはり今のは失言だったか。雅人は由奈に会ったことがないんだから、誤解されるに決まってる。


「由奈、自己紹介だ」


「はい、わたしは幽霊魔法使いゆなです!」


 ぺこりと頭を下げた。


「はっ? 幽霊魔法使いってなんだよ」


 由奈よ、そんなわけの分からん自己紹介があるか。由奈はさっきの魔法使いまどかが凄く気に入ったらしくて、幽霊魔法使いゆなと言う造語まで作っていた。


「冗談上手いねえ、由奈ちゃんって言うのかな」


「はい、由奈っていいます」


「可愛いねえ」


 そして、雅人は幽霊だと全く気が付かなかった。まあ、こんな可愛くエロい水着の幽霊なんていると思わないだろうしな。


「そういや、由美さんは?」


「今は更衣室で着替えてる。もうすぐ出てくると思うよ」


 どうやら雅人が先に着替えが終わったので、由美を待っていたら俺たちが話してたのでこっちに走って来たらしかった。


「ちなみに幽霊と言うのは本当な」


「はあ? こんな可愛い幽霊いるわけねえだろ」


「それがいるんだよ」


 雅人はじっと由奈を見て、またまたと俺に笑いかけた。


「そりゃさ、コンパの時に今まで彼女いたことないって、嘘言ったことは許せなかったけどよ。でも、ダブルデートしてくれたから、水に流すわ」


「だから、本当にいなかったんだよ」


「お前がそんなすぐに彼女作れるわけねえだろ。どうせ高校の時に唾つけてた口だろ!」


 いや、完全に誤解されてるが……。どうやら雅人の頭の中では俺と由奈が一緒に大学受験を頑張ってるうちに恋に落ちたと思ってるらしい。


 そんなリア充な体験したことねえよ。俺は説明するのも面倒になってきて、はいはいとだけ答えた。



◇◇◇



脱線に次ぐ脱線。


本筋がどこからスタートするんでしょうか?


でも、一つ発見がありました。


由奈は魔法少女だったのです!


冗談ですね。


読んでいただきありがとうございます。


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