第3話 幽霊と同棲!?
美味しそうな匂いがする。
テンポよく聞こえる包丁で何かを切る音、カシャカシャと言う食器の重なる音、何かを炒める音。さっきから母親が調理する音と同じ音が聞こえていた。
「あれ? 俺いつの間に寝てたのか? しかも生きてるよ」
俺は慌ててベッドから飛び起きた。
「おはよう。厨房使わせてもらってるよ」
今まで踏み場もなかった1LDKの俺の部屋は驚くほど綺麗に整理されていた。コンビニ袋やペットボトルに埋もれて長らく使ってなかった二人用のテーブルは綺麗に磨かれ、出来たばかりの卵焼き、サラダ、ご飯にお味噌汁が並んでいた。
「ごめん、冷蔵庫に残り物しかなかったから、このくらいしか作れなかったけど……」
ニコッと微笑んだ顔がとても可愛い。氷の彫刻のような綺麗さと思っていたが、笑うと普通に可愛かった。てか、なぜ幽霊がここにいるの? しかも料理まで作ってくれてるなんて……。
「由奈ちゃんだっけ?」
「うんっ! その名前聞くの久しぶり……そうだよ」
強く頷く。
「幽霊……だよな?」
「うんっ!!」
そこも強く頷いた。
「えと、なんで幽霊が料理作ってるの?」
むしろ呪い殺されててもおかしくない訳だが……。
「古いよ、古いっ!!」
由奈は俺を指さした。なんかこんなシーンアニメで見たような……。
「今の幽霊はね。テレビから出てきたり、追いかけて首を絞めたりできるんだよ」
いや、それ貞○だからさ……。しかも、どちらもとても物騒だ。
「で、なぜ幽霊さんは料理を作ってくれてるの?」
「幽霊さんなんて呼び方は嫌、由奈って呼んで」
由奈は思っていたのとはかなり違い、驚くほど明るかった。ニッコリと笑うと本気でドキッとする。
「じゃあ、由奈さんはなんで料理を作ってくれるんだ?」
「それは!?」
人差し指でちょんちょんと自分の頬をつく。
「交換条件かな?」
ニコッと微笑んだ。
「交換条件?」
「えとね、わたし幽霊でしょ」
でしょうと言われても確認しようがない訳で……。本人がそう言うのだから、そうなのだろう。
「だからね、帰る家とかなくて困ってた!」
帰る家を探している幽霊なんて聞いたことがないけども、そんなもんなんかね。この件に関しては疑問点しかないのでそうだと理解することにする。
「てことは、同棲したいと?」
「どどどどど、同棲!? わたしとたっくんが同棲!!」
頬を染めて同棲かーっと、もじもじしている。こんな美少女に惚れられるのは嬉しいが、何故惚れられてるのか理由が分からない。
「で、なぜ由奈さんは俺の名前を知ってるの? しかもたっくんってなんだ?」
「たっくんはたっくんだよ? それよりさ、ご飯冷めちゃうよ」
さあさ、食べて食べてと促される。これ、毒とか盛ってないよな。一昨日の日、ネットで噂話を調べたら、三ツ木交差点の幽霊に追いかけられたら、数日後に必ず死ぬと書いてあった。
そんなことを考えながら、俺は由奈を見て、再び料理を見る。
「ぐーっ、キュルキュルキュル」
「さあ、どうぞ!」
思い切り笑顔だ。ここまで嬉しそうだと逆に心配になってくる。そうは言ってもお腹は正直なもので、食べたいと訴えていた。どうなっても知らないぞ、と俺は箸をもって由奈の手料理に手を伸ばす。まずは卵焼きからだ。俺は卵焼きにはちょっとうるさい。
一口、二口と食べてみる。うむ、これは……ヤバいくらい……。
「うまい!!」
「でっ、しょう!!」
由奈は思い切り顔を乗り出した。てか、近いって……。それにしても料理も出来て、掃除もできる。こんな幽霊最高じゃないか。しかもとんでもなく可愛かった。卵焼きは俺の大好物だ。母親の卵焼きを食べ慣れてるから、ちょっとやそっとの卵焼きでは満足しない。これは、それの遥か上をいっていた。
ご飯も味噌汁も、そしてサラダも俺好みに調理されてて、驚くくらい美味しかった。
「なぜ、こんなに美味しいの?」
「愛の力だね」
ふにゃーと微笑んだ。愛の力ってなんだよ、そう言えば……。
「さっきから言ってるたっくんってなんだよ」
「あだ名だよ、わたしがつけた」
そう言いながら、由奈は目の前の卵焼きを口に放り込んだ。本当に幽霊かよって心の中で突っ込む。
「なぜ、俺の名前を知ってるの?」
そもそも、なぜ、こんなに好かれてるのか俺にはよく分からない。
「それも、もちろん愛の力だよ!!」
由奈は強く両手を握った。好かれるのは嬉しいが、出来ればその理由を教えて欲しいんだけどな。それに幽霊なら触れることさえできないだろ。
「触れることはできるよ」
俺は思わず口に出してたのか。目の前の由奈はニコッと微笑んだ。ほらっと俺の指先に自分の指を入れる。
「えへへへっ、恋人繋ぎだね」
いや、そうなんだが、何か違うような……。新婚ほやほやのカップルのようでやけに照れくさい。
「でもよ、由奈さんは幽霊なんだから、いつかは成仏するよな」
うーん、と由奈は自分のおでこに指をあてて唸った。
「わからない!」
「でもよ、現世に未練があるから、今ここにいるんだろ!」
「そうかもね」
「そうかもって、心当たりとかないのか?」
「たっくんに会えなかったことかな?」
「いや、だから、そもそも俺、お前と会ったことないからさ」
「えーーっ、たっくん忘れちゃったの?」
目の前の由奈が身体を乗り出す。いや、こんな美少女一度見たら忘れないから。そもそも俺は小学校から高校までもてたことはなかった。
数度行った告白は全て玉砕すると言う最悪の結果に……。高校の時も……、あれ……何かあったような。俺は忘れてはいけないことを忘れてるような気がした。
「どうしたの?」
目の前の由奈は俺をじっと心配そうに見ている。
「いや、なんでもない。そういや、お前ってみんなに見られてるよな?」
「なんかね夜11時にわたし見える時があるらしいんだよ」
「て、ことは普段は見えないと?」
「うん、コンビニとか入ってもいらっしゃいませとか言われないから、たぶんね」
由奈は相変わらず俺を嬉しそうに見ていた。
うーん、可愛い娘に惚れられるのは嬉しいが理由が分からないので、気味が悪いんだよな。
そんな風に考えてると俺のスマホが鳴った。番号を見ると悪友の雅人からだった。由美のやつ上手くやれたのだろうか。俺はスマホの着信を押した。
「どうした? 由美と上手くいったか?」
「由美と上手く行ったか、とは何のことだね!!」
スマホから聞こえた声は山川先輩のものだった。はあ、なんで雅人のスマホなのに山川先輩の声がするの?
「ちょっと、それ俺のスマホですよ」
「関係ないだろ!」
「ありますって!!」
「お前、もしかして山川先輩と一夜過ごしたのか?」
「断じて違う!!!!! 昨日から大変だったんだよ」
そこは今までになく力強く否定する。まあ、当たり前か。どうやら俺を見送った後、山川先輩に捕まって由美と一緒に二次会に行ったそうだ。
「と言うことだから、今からお前の家に行って除霊してやる!!」
「えっ、どういう事ですか?」
それだけ言うとスマホは切れた。どうせ昨日、幽霊の話が出たんだろう。除霊に来ると言うことは由奈がいなくなると言うことだ。それは今の俺にとっていいことなのだろうか。
俺は目の前の由奈をじっと見た。
「じっと見つめてどうしたの? 凄く嬉しいけども……」
由奈はご飯を食べながら嬉しそうに微笑む。流石に呪い殺されるなんてないよな。でも、好かれてるんじゃ無くて、取り憑かれてる可能性の方が高いわけで……。
「俺はどうしたらいいんだよ!!」
「たっくん!!! どうしたのですか!!!」
俺が頭を抱えると目の前の由奈がすごく心配そうな表情で俺を見た。いや、俺はお前のことを心配してるんだって。
◇◇◇
変わった幽霊さんですね。
今後ともよろしくです♪
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