第4話 除霊!?
「ほら、来てやったぞ!! 開けたまえ!!」
突然、インターフォンが鳴った。出てみると山川先輩の顔のアップがドアカメラに写っていた。
「とりあえず、隠さないと……」
幽霊なのだから見えないと思うが、変に勘づかれて除霊されたらダメだ。俺は窓を開けて由奈にベランダに出てもらう。
「えっ!? お友達さんですか?」
ベランダに出ながら、ぱちくりと大きな瞳でじっと見つめる由奈。
「いや、ただの先輩だ。なんか除霊したがってる」
「はあ、そうなのですか?」
俺も昨日会ったばかりで、なぜそんな話になったのかさえ分からない。由奈に未練があるのならば、中途半端に除霊なんて形で別れたくなかった。
「じゃあ、ここにいますね」
幽霊なのだから、すり抜けたり出来ないのだろうか。俺は窓を締めレースのカーテンも締めた。三階だから飛び降りると怪我だけではすみそうにない。いや、でも死んでるのならば、飛び降りても平気なのか。
不思議な気持ちで、インターフォンの応答ボタンを押した。
「あぁ、わざわざありがとうございます。すぐ開けますね」
しばらくすると室内用のインターフォンが鳴る。俺は玄関ドアを開けた。
「おお、男の部屋にしては片付いてるな!」
俺の部屋だと言うのにお構いなしに玄関を上がる山川先輩。悪いなと苦笑いする雅人と由美。コンパの時に分かったことだが、山川先輩は本当に空気を読まない人だった。
「で、取り憑いてる幽霊はいるのかね?」
「いえ、特には取り憑かれてないですよ」
「本当か? 昨日、酔った勢いで思わず幽霊をお持ち帰りしちゃったとかないのかね!!」
本気か、凄い勘だよ。
「いえ、そんなことはないと思います」
俺は慌てて首を振った。
「本当だな。人によっては取り憑かれてるとも知らずに、匿うこともあるらしいからな」
この人、本当に冴えてるな。
「そういやさ、お前の部屋こんなに片付いてたっけ? 確かこの前来た時は足の踏み場も……」
「コンパだったから片付けたんだよ。そんなことどうでもいいって」
俺は慌てて雅人の言葉を遮る。まじでやべえ……。
「しかも、よく朝ごはんなんて作れたな。あんなに酔ってたのによ。しかも二人分?」
料理なんかしたことないなんて言わなきゃ良かった。雅人は凄く不審な目で俺を見た。
「お前、昨日のコンパで誰か女の子をお持ち帰りしてないか?」
「ないないないない……」
「確かにコンパでは俺達とずっと一緒だったからあり得ないよな」
やばいなあ、これではすぐに気づかれそうだ。
「まあ、そんなことより座ってよ」
そう言ってクローゼットから客用の座布団を取り出そうとした。
「拓人さんって、凄く綺麗な字ですね」
由美がテーブルに置かれたメモを手に取って、こちらを見る。て言うかメモなんてあったのかよ。
そのメモには、冷めないうちに食べてくださいね、とだけ書かれてあった。そうか、俺が起きなかったら、そのまま帰るつもりだったのか。
「おい、冷めないうちに食べてください、ってどう言うことだ」
山川先輩が由美からメモを取り上げると、メモと俺を交互に見た。
「しかもそれ、拓人の字じゃないぞ!」
自分に食べてください、と言うやつを俺は見てみたい。
「いやさ、昨日。そうだ、妹が来てたんだよ!! そうだそうだ。忘れてた」
妹は両親と名古屋に住んでいるが、兄を訪ねてくるのは、不自然でも無いだろう。
「大阪の従兄弟の家に行っている咲ちゃんがか?」
ぐうの音もつかない。えっ、そうなのかよ。て言うか俺より妹の予定知ってるこいつはなんなんだよ。
「昨日、大阪の土産何がいいか教えてください、と咲ちゃんからLINEあったけどな」
本気かよ。俺に聞けばいいのに、何故わざわざそれ雅人に聞くんだよ。
「お前、俺の妹に手を出したら承知しねえぞ」
雅人が俺の肩に手を置いた。
「大丈夫だ、その時はお前にちゃんと了解もらうから」
「えーーっ、雅人さんってJKの趣味もあるんですかぁ」
「いや、こいつの妹、結構こう見えて可愛いんだよ」
「妹はやらないぞ」
「おー、怖い怖い」
「そんなことより、妹さんじゃないのなら、誰がメモなんて置くんだ? しかもこれは女の字だよな?」
達筆な字で書かれているが、確かに丸みを帯びた字は女性ぽかった。
「そうなんかなあ、あはははっ」
「何を隠してるんだ? しかも、食器も二人分置いてあるし……」
「おいおい、マジで幽霊に取り憑かれてるんじゃないのか?」
「取り憑かれてるなんて言うなよ! 由奈は俺のことが好きみたいなんだよ」
「由奈?」
「あっ……」
しまったと思った時にはもう遅い。まあ状況証拠がここまで出揃ってしまっている時点で言い訳する方もどうかと思うけどな。
「由奈と言うのはもしかして、交差点の幽霊のことかね」
ここまで来ると言い訳をするのも不可能だ。
「昨日、例の交差点で転んでしまったんですよ」
「その時に幽霊に助けられたと……」
「介抱してマンションまで連れて行ってくれました。部屋も片付けてくれて、料理も残り物で作ってくれたんですよ」
「おいおい、そんな話あるのかよ!」
「うわっ、その幽霊拓人さんにぞっこんじゃないですかぁ」
「と言うことはだ。その時に取り憑かれたと言うことか?」
「取り憑かれてはいないと思うのですが?」
「何を言ってるのかね。もしかして好かれてるとでも思ってるのか?」
「たっくんと言って笑いながらじっと見つめてくるんですよ」
山川先輩はため息をついた。
「それ、死亡フラグだからな」
「えっ、なんで?」
「冷静に考えても見ろ。幽霊に取り憑かれて、好きって言ったらその向こうには何がある?」
「えと、この生活がずっと続いていくかな?……」
「馬鹿も休み休みいいたまえ。幽霊は死んでるのだぞ。なら、お前も一緒に死ぬしかないじゃないか!!」
山川先輩は真剣な表情で俺を見た。
「由奈と言う幽霊は噂で言われてるように綺麗な人なのだろう。そして今、由奈のターゲットは拓人君だと言うことに気が付かないとならないんだ」
俺は唾を飲み込んだ。確かに客観的に見ればそうだ。幽霊との交流の行き着くところは死だ。
「由奈さんに悪気があるわけじゃない。だが結果的に君が由奈さんに関わり続ける向こうにあるのは確実な死だ。どうだ除霊していいかな」
俺は両手をぎゅっと握った。
「ちょっと待ってください。由奈もこの世に心残りがあると思うのです。少しだけ、除霊待っていただけませんか?」
「あのさあ、やばいだろ、それ」
「まあ待て。拓人くんの話では今日明日、幽霊に殺されると言うものではないだろう。少なくとも拓人くんは幽霊に恨まれてはいない。少し様子を見るのもいいかもしれない」
「いいんですか?」
「まあ、この書き置きに書かれてるように、どうせ今はこの部屋にはいないだろうしな」
俺は心の底からホッとした。変な書き置きのおかげで窮地に陥ったが、少なくとも勘違いはしてくれた。
「まあ、わたしもそろそろ眠たくなってきた。この話はまたするとするか」
「わたしも昨日からずっと飲んでて眠たいですぅ」
「俺もだよ。拓人じゃあ、また連絡するから」
そう言って扉を開けて帰って行く。俺は本当に由奈に取り憑かれているのだろうか。閉められた玄関ドアを見ながら、俺は思い切り息を吐いた。
「本当に俺、死ぬの?」
◇◇◇
取り憑かれてるのか、好かれてるのかどっちか分かりませんが、由奈ちゃんは拓人くんか大好きなのは間違い無いんじゃないでしょうかね。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
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