第5話 ファッションショー?

「で……、だ。やっぱり俺は由奈さんに取り憑かれてるのかな?」


 窓を開けながら最初に浮かんだ疑問を聞いてみた。


「どうなんでしょうね。少なくともわたしにはそんな意識ありませんけども」


 首を傾げ、唇に人差し指をつけながら本当に不思議そうな顔をする。少なくともそこから呪いなんて、言葉は到底出てこない。でも、小説なんかでも、本人が意識しないうちに力を吸い取られて死んでしまうなんてケースもある。けれども……。


「まあ、いっか……」


 由奈に敵意がないならば俺としては、特に追い出す理由もない。それより……。


「この世に何か未練があるのなら、手伝おうか?」


「本当ですか!! でも、……うーん。何があるのか分からないです」


 由奈と言う女の子がどこで生まれたのか、そしてどこで生きて、いつ死んだのか、そのルーツを調べる方が先じゃないのかな。


「そういや、由奈は俺のこと知ってるって言ったよな?」


「言ってましたっけ?」


 目の前の由奈は、あははははっと苦笑いした。


「覚えて、……ないのか?」


「いえ、たっくん見た時にキュンと胸がなったんですよ! その気持ちに偽りはないですよ」


「いや、お前。覚えてないのですか? って言ってたよな」


「わたしがこんなに好きなんだから、覚えてないのかな、と」


「なんで由奈が知らないのに、俺が覚えてるんだよ」


「んっ、なんででしょう?」


 何故か目の前の由奈はあたふたしている。


「とりあえず、何も覚えてないけども、何故だか俺に心当たりがあったと?」


「たっくんが好きなことは間違いないのですよ!」


 覚えてないことも間違いないらしかった。


「じゃあ、ショッピング行こうか?」


「えっ!? デートですか?」


「いやいやいやいや……、昨日今日会ったばかりでデートはないだろ! それよかその服……」


 由奈は自分の着ている服をチラチラと見る。流石にこの服だと色々調べるにしても問題がありすぎる。


「これしか持ってませんからねえ」


 あははははっ、とほっぺをかきながら苦笑いする。


「顔は可愛いのに、服装ダサすぎるから、買いに行くぞ」


「えっ!? 買ってくれるのですか?」


「お前、お金持ってないだろ?」


「持ってないこともないけれども、足り苦しいのは事実です……」


 なんで、幽霊なのにお金持ってるの? 本当に幽霊なんだよね? ツッコムところしか浮かばないが、今までも触れたり、ご飯を食べたりしてるので、深く考えないことにした。


「ほら、行くぞ」


 俺が手を出すと、由奈はえへへへっと笑いながら俺の指に自分の指を絡めた。


「恋人繋ぎです!!」


「いや、普通の繋ぎ方でいいから……」


 俺は恋人繋ぎを外して普通に手を繋ぐ。


「えーーっ、恋人繋ぎがいいですよ」


 凄く不満そうだが、まだ親しくもないのに恋人繋ぎはおかしいだろ。


「恋人でもないのにおかしいだろ」


「恋人じゃないんですか?」


 キョトンとする表情は可愛いがそれとこれとは別だ。昔の考え方かもしれないが、俺は昨日今日、出会ったばかりの女の子に恋をしたりはしない。


「そう言うことはもっとお互いのことを知ってからでだな」


「わたしのことで話すことなんて、本当に少ないですよ」


「だから、探すんだよ」


「そうでした!」


 そう言って由奈は俺の手を強く握った。本当に幽霊ぽくないよな。


「そういや……」


「んっ?」


 エレベーターで一階に降りながら、聞いてみる。


「お前って俺以外に見えないのか?」


「そうですねえ、本来ならそうなのでしょうけれども……」


「違うのか?」


「相手を通して具現化させることができるそうです」


「どう言うこと?」


 ちょっと何言ってるのか分からない。エレベーターが一階についたので、エントランスから入口の自動ドアを開けて外に出た。


「簡単に言うと今ならば拓人さんと一緒にいる時は、みんなに見えてるかと。もちろん消えることも可能ですが……」


 幽霊ってみんなに見えないものかと思っていたが、由奈に関して言えば、俺と一緒にいる時はみんなに見えてるそうだ。


「そう言う経験したことあるのか?」


 横を歩く由奈は、んっ、と唇に手を当てて俺を見て笑った。


「なんとなくですけども……確信はあります!」


 本当か? その自信の根拠がそもそも分からないのだけれども……。


「そんなもんかねえ。じゃあ、試してみるか」


 俺は由奈の手を引き駅前のショッピングモールに向かった。



◇◇◇



「可愛い彼女さんですね」


 3階婦人服売り場の女性店員が由奈を見てニッコリと笑った。確かに見えてるな。


「どれがいい?」


「うーん、たっくんはどれがいいでしょうか?」


 由奈は服を手に取り俺をじっと見た。


「彼女さん可愛いですから、何着ても似合いそうですが、彼氏さんはどんな服がいいですか?」


「彼氏じゃないですけども……」


「彼氏じゃないんですか?」


 女の子の服を買うのに、彼氏じゃないと言うのも不自然だ。


「うーん、話すとややこしいから、それでいいよ」


「じゃあ、服を選びますね」


 店員さんはそれ以上何も聞いてこなかった。まあ、彼女にしてみればどちらでもいいことだろう。店員さんは、由奈に似合いそうな服を数着選んでくれる。


「彼女さんなら、何着ても似合いそうですがね」


 上から下まで揃えないとならないが、普段バイトをしてるし、仕送りもある。無駄遣いする相手もいないので、貯金はかなりあった。とりあえずこの店で散財しても、金欠になることはないだろう。


「じゃあ、着てみろよ」


「えっ、でも悪いですよ!」


「俺がプレゼントすると言ってるんだ。流石にその格好じゃダサすぎるぞ」


 由奈の視線は俺と服を行ったり来たりした。


「分かりました。お礼は絶対しますから……。じゃあ、たっくんの好みで決めてください」


 少し顔を赤らめて俺を見る。


「分かった、分かった選んでやるから、着て来い」


 こうして由奈のファッションショーが始まった。



◇◇◇



由奈さんは少しポンコツ系美少女かもしれませんね。


さあさあ、どうなることやら。


読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いしますね。

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