第13話 学校と由奈

「ねえ、たっくん覚えてるよね!」 


「ああ」


 マンションに帰って一番初めに俺がしたのは由奈にアメプラを見せることだった。魔法少女まどかは、序盤がかなり厳しい展開なので、初心者には厳しいだろうと思っていたが凄く感情移入して見ていた。


 結局、夕飯の戦力にならなかったため、コンビニでご飯を買う羽目になったが、まあたまにならいい。


「ごめんなさい」


「いいって、別にお手伝いさんとして居てもらってるわけじゃないし」


「ありがと」


 ご飯を食べると俺はさっさとリビングに布団を敷こうとした。


「えっ!? 何をしてるんですか?」


「朝、言っただろ?」


「でも、それじゃあ、由奈が一緒に寝れませんよ」


「いや、一緒に寝ないから」


「えええええっ!?」


 由奈、どうしてそうなるんですかね。とりあえず今回だけはなんとかベッドに寝てもらうことにした。流石に由奈にリビングで寝させるわけにも行かないしな。



◇◇◇


 

(そして次の日の大学)


「たっくんの大学って大きいんですね」


 由奈は水色のワンピースに少し大きめの鞄を肩にかけていた。鞄の中は今朝早起きして用意していたお弁当が入っているはずだ。今日の授業は、二限目と三限目のみだった。大学のカリキュラムは高校などと違い90分授業のため、昼休憩までに二限、昼休憩が終わってから三限の合計五限である。


「由奈、授業受けてみるか?」


「えっ!? 大丈夫なんですか?」


「二限は一般教養だから、別に部外者がいても誰も何も言わないよ」


 目の前の由奈は、目をキラキラ輝かせて俺を見た。


「行きたい!!」


「分かった、分かった」


 行くぞ、と俺が由奈の手を握り一階の講義室に入った。映画館のように階段状になっていて俺たちは後ろの席に座った。毎回いる常連達は前の席に座るので俺はいつもここに座っていた。


「前に行かないのですか?」


「行かないよ」


「そうですか」


 少し寂しそうな顔をする。由奈にとっては目の前で手を挙げたりしたいのかもしれない。目立つと困るので俺は由奈の耳元で小さな声で囁いた。


「手とか挙げて質問しないでくれよ」


「えっ!? ダメですか?」


 高校とかと違って、手を挙げたりはあまりしない。由奈は部外者だからそれでなくても目立っては欲しくなかった。


「おっ、彼女連れかよ」


「雅人か、気軽に言うなあ」


「まあまあ、そう言うなよ、それよか由奈ちゃん、昨日はありがとな」


「いえいえ、わたしも楽しかったです!」


「俺に礼はねえのかよ」


「お前は俺のおかげで由奈ちゃんと一緒に来れて良かっただろ」


 まあ、それは確かだが、ここには由奈もいるから正直それを認めるのは恥ずかしい。


「うっ、せえよ」


「おっ、図星かね。照れてるじゃねえか」


「んなことねえよ」


「由奈ちゃんは拓人と一緒に行けて良かったよね」


「はい、たっくんとどこに行こうか迷ってましたし、ちょうど良かったです」


 由奈、そこまで言わなくていいんだぜ。それでなくても雅人はプールのおかげで由美とグッと近づけたはずだ。雅人もはじめは照れて俺を間に入れて話していたが、昼飯を食べた後は普通に彼氏彼女に見えていた。


「そういやさ、今日山川先輩来てるらしいぜ」


「そうなのか?」


「うん、多分サークルに行けばいるはずだよ」


 そういや、オカルトサークルってどこにあるんだ。俺は先日コンパに無理やり参加させられたが、基本的にはどこかのサークルに所属しているわけではない。サークルの情報やコンパへの参加はほぼ、雅人絡みだった。


「どこに、サークルあるんだ?」


「お前なあ、一年以上も大学にいてそんなことも知らねえのかよ」


「知らねえよ、俺の情報源は、ほぼお前だろうが」


「いやあ、そんなことじゃ大学生活楽しめねえぞ」


 雅人は由奈の方を見た。


「由奈ちゃん、拓人の干からびた学生生活を君の力で実りある生活にしてくれよな」


「はい! もちろんです!!」


 雅人は俺の耳元で小さな声で囁く。


「もう、やっちゃえばいいじゃん」


「うるせえよ」


 他人事だと思ってよ。そんなわけに行かないじゃねえか。いくら可愛くても由奈は幽霊だし、惹かれることはあまりいいことではないと言うしさ。それにしても……、昨日由美から転生者じゃないかと言う話も出たよな。転生者と幽霊では全く異なる。


 触れることもできて、ご飯も食べれる、魔法も使えると言う意味では転生者なのかもしれない。しかし、姿が特定の人物しか見えないと言う意味では幽霊に近かった。


 もっとも本当に特定の人物にしか見えないのかさえ本人の話だけなので分からないのだがな。


 昨日も普通にナンパされてたしな。そういや、魔法使ってたな。ヒーリングとかまるでゲームみたいだった。ただ、ゲームと違うのは本当に治ってしまったことだ。本来ならば、湿布をしても半月は治療にかかっただろう。そう考えると魔法の力って凄いな、って思う。


 山川先輩に聞いてみないと分からないが、魔法が使えるならばどんな魔法が使えるのか試してみたいな、などと俺は由奈をぼーっと見ていた。


「ん? どうしました」


「由奈ちゃん、こいつが由奈ちゃんと……」


「雅人、待て待て!!」


 雅人の口に手を当てて言葉を遮る。全く何を言おうとしてるんだよ。由奈は子供なんだからな。


 俺はじっと由奈を眺めた。でもよ、見た目からすると同い年か少し下くらいだろう。もう恋をしててもおかしくない年だよな。もしかして、いたしちゃって処女じゃないとか……。


 雅人がへらへら笑って俺を見た。


「お前の考えてたこと当ててやろうか?」


「当てなくていい」


「俺が聞いてやってもいいぞ」


「聞かなくていい」


 もっとも聞いたところでバージンかどうかなんて今の由奈にも分からんだろ。


 そう考えてると教授がやってきた。


「ほらほら、静かにしてくださいね。授業を始めますよ」


 俺は由奈にノートを渡す。


「えっ、これは?」


「頼む、ノート取っといてくれ」


「えっ!? えーっ」


「大丈夫、写すだけだからさ」


「たっくんはどうするんですか?」


「寝る!」


「えええええっ!」


 この教授の授業はお経に似ている。聞いていると不思議と目が重くなっていくのだ。そうして、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。

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