第14話 山川先輩

「もう! ちゃんと起きてなきゃダメじゃない」


 目を開けると由奈が怒った顔で俺を見ていた。ノートを見ると綺麗な字で板書されていた。


「ごめん、ごめん。この授業ついつい寝てしまうんだよ」


「ダメだよ。折角お金払って大学で勉強させてもらってるんだからね」


 雅人の方を見るとさっきまで授業内容を説明してたようだった。ずるいぞ、いつもなら一緒に寝てるのによ。


「たっくんも雅人さんを見習わないとダメだよ」


 真剣な表情で心配してくる。一般教養なんてノート取ってたら大丈夫だと言ったら、真剣に怒られそうだ。


「ごめんね、今度からはちゃんと俺がノート取るからさ」


「分かった。ならいい」


 ため息混じりに由奈がそれだけ言う。


「それで、雅人さん。すみませんが山川先輩のところに案内してくれますか?」


「いいよいいよ。由奈ちゃんの頼みだからね」


 俺の寝ている間に何の話をしてたんだよ。仲良く話している姿を見て、すこし嫉妬してしまう。まさか、ないよな。雅人には由美がいるしな。


「その前に飯食わねえか?」


「そうだな、じゃあ購買でも行くか」


「いえ、その、わたしとたっくんはお弁当があるので……」


 由奈が恥ずかしそうにボソボソと呟く。


「あー、その鞄の中に弁当入れてたのか。まあ、うちは外に食べれるスペースあるから大丈夫だよ」


 そう言いながらスマホを取り出して耳に当てた。


「ついでに山川先輩も呼んでやるよ」


「お前、山川先輩の番号知ってるのかよ」


「無理やり交換させられた」


「マジか」


「マジだよ」


 酔った山川先輩が怖いことはよくわかる。番号を聞き出された雅人の姿が容易に想像できて、俺は苦笑いをしてしまった。


「来るってよ」


 その声を聞いて由奈が心配そうな顔をする。


「由奈、大丈夫だからな」


「うん、たっくんありがとう」


「なんかお前ら見てるとラブラブだよな」


 俺は何も言えず思わず苦笑いしてしまう。幽霊と人間のかなわない恋なのか、それとも彼女は由美が言ったように転生者なのか。それによっても今後の俺の行動が大きく変わることになる。転生者なら、……大丈夫なのかな。思わず邪な考えが頭に浮かんで俺は頭を振った。


「たっくん、どうしましたか?」


 由奈、ごめん。そんなに澄んだ瞳で見つめないでくれ。


「由奈ちゃん、こいつが何考えてたか教えてやろうか」


「こら、やめろよ!」


「はい?」


「図星じゃねえかよ」


 雅人が凄いのか、俺が顔に出しすぎるのか、分からないが、少なくとも由奈だけは顔に大きな?マークを貼りつかせていた。


 女は少し鈍い方が可愛いよな。思わず由奈を見てそう思ってしまう。


 購買と言ってもカフェテラスのようで、外にベンチがたくさん置かれている。俺たちは木陰の側のベンチに座った。


「じゃあ、購買で買ってくるから、山川先輩来たらよろしく」


 雅人はそれだけ言うとカフェの方に行ってしまう。


「はい! これが今日のお弁当だよ。で、これがお茶ね」


「結構重かったんじゃねえの」


「平気だよ」


 見た目より鞄には重そうなものが入っていた。軽く持ってるように見えたので、持たなかったけれども、持つべきだったか。由奈の華奢な腕ではこの程度の荷物でもかなりの負担になるだろう。


「おっ、うまそうじゃねえか」


「はい?」


 俺が顔を上げるとそこに山川先輩がいた。由奈のことを話したくて仕方がなかったけれども、正直この先輩は苦手だ。


「山川先輩、よろしくお願いします」


 目の前の由奈がぺこりと大きく頭を下げた。


「あぁ、そういや昨日うちの神社に来たんだってね」


「はい!」


 山川先輩はじっと由奈を見る。しばらくして、俺の方を見た。


「彼女からは強い霊力を感じるね」


「やはり幽霊なのですか?」


 一瞬、由美の言った転生者と言う言葉が浮かんだが、山川先輩からの言葉は意外なものだった。


「うーん、生きてるのか死んでるのかさえ、分からないね。こんなこと初めての経験だよ。ただ、一言言えることは、彼女は強い力でこの世界に留められている。その力がなんなのかは分からない」


「と言うことはやはり幽霊なのですか?」


「幽霊かもしれないし、生きてるのかもしれない」


 俺は山川先輩に昨日会ったことを説明した。


「なるほどな。それは彼女が昔から持っていた能力なのかもしれんな。由奈くん、例えばあの木の葉をそうだな、二十枚くらい散らせるか?」


「できるかも知れません。やってみますね」


 由奈が手を木に向けると、木の葉がゆさゆさと揺れ出した。すぐに葉が数十枚落ちてきた。


「できました! 凄いですね。やはりわたし魔法少女のようです」


 由奈は自分のやったことなのに、凄く驚いていた。


「なるほどな、これは稼げそうだ」


「はい?」


「この能力で、この容姿だ。すぐに芸能界からオファーが来るぞ!」


「しませんよ」


「えー、それで稼いでもらって部費にしようと思ったのに」


 て言うか搾取するつもりだったのかよ。


「まあ、冗談はさておき」


 さっきの表情は本気に見えたのだが……。


「その魔法の力は面白い。同じような例がないか調べておこう」


「ありがとうございます」


「それと、由奈くんのその力を使って人助けをするのもいいかもしれない」


「えっ、でもそうなったら、マスコミとかに」


「出なきゃいいだろ。名前を売ることで例えば生前の両親とかの目に留まるかもしれんからな」


「それやらなきゃダメですか?」


「大丈夫だ。仕事はわたしのサークル経由で紹介してやるから。わたしが表に立つから目立つことはない」


 山川先輩の目を見ると凄く嬉しそうな表情をしていた。


「これで金儲け、いや人助けができるぞ!」


 いや、本音がダダ漏れですがな。本当に大丈夫なのやら……。


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