いやコレ、わりとマジでお兄ちゃん悪くない?

  • ★★★ Excellent!!!

現実世界で暮らした記憶を持って異世界に転生した主人公、カイル。前世の記憶を基にした怪しい訓練法を妹レイラに教えたところ、超人的な武力を身に着けてしまう。
本編では修業時代の兄妹と、後に戦で名を上げ剣聖と呼ばれるようになったレイラの物語が交互に語られる。


掌を向かい合わせて、その中心に意識を集中させて、「気」の塊ができないか試してみた経験のある人は多いのではないか。私もよくやってたが、もちろん一度たりとも光の玉とかが出現したことはなかった。

だが、この異世界では出る。
物理法則を超えて、人間の精神が現実に影響を与えるのだ。

気のかたまりを作る練習を続ければ、そのうちもっとデケェ気を練れるようになる。更に修行を重ね、両手を脇腹近くに構えて気を溜めた後、前方にエネルギー波として放出できるようになれば完成だ。何とは言わないが。

要するにそういう感じの世界観なのだ。


それで、主人公は自分の考えたトンデモ理論に基づいて妹を訓練し、どんどん強くしていく。
基本的に思いもよらず大成功してしまったというノリなんだが、モラル的にちょっとギャグを離れてこれはいかんのじゃないかと思うとこがある。

何が問題かと言うと、妹自身に強くなることに何の目的意識もないじゃないですか。町から一歩外に出たらモヒカンが殺しに来るという世界だったり、妹本人が海賊王になりたいとかの目標を持っていた場合、力を身につけることは有益で、彼女自身のために役に立つことだろう。

でも、この作品内だと、妹はただ兄に憧れてその後ろをついていきたいという思いだけで。それ以外に強くなってどうしたいというビジョンがまるでない。主体性がなく兄を追いかけている未熟な人間なのは、未来編の剣聖となった後も変わらないと描写されている。

精神が成熟していない子供に、力だけ持たせたらロクな末路にならないのは当たり前。現に、レイラは望みもしない英雄になって歪んだ人生を歩んでるしな……。

お兄ちゃんはこの落とし前をどう付けるつもりなのか。
その答え次第で、評価が別れそうな一作だ。


その他のおすすめレビュー

ESSさんの他のおすすめレビュー44