天使はかつて女の子だった。女の子が見るは現実の中にある憧憬と葛藤で——

書簡体小説のような叙述的エッセンスを感じる短編作品。人嫌いの天使が世界を見下ろして綴られていく言葉は解放的でありながら、彼女自身の目線は卑下ており、窮屈で息が詰まる感覚を読み手に与えてくる。

船香との出会いまでの過程も丁寧で、存在を排除してしまった天使が自分の形に近い少女を俯瞰する事で、救いを知れたというストーリーラインが美しい。ありのままとは心地良くもあるが、噛み合わなければ重荷になるというカタルシスが文章によく出ています。

全体的に完成度は高い一方、理不尽のアクセントとなるいじめ描写は使い古しの域を出ないものでした。本作は天使といったファンタジー要素を含みますが、同性を好きになってしまう葛藤と得られない理解という現実味のあるテーマなので、あまり「ありがち」に頼ると、マイノリティの解像度を下げる要因となります。

作品としては十分な出来なので、手直しする必要はありませんが、『可哀想』で片付けられないような展開の工夫があると、文芸作品として極上なものとなるでしょう。

今一度見つめる事の大切さ、儚き少女達の姿、淡い想い含む文章が生む揚力は読者の心に浮遊感を与えてくれます、良作です。