救世主になるために。これは、こころ蹌踉めく勇者が『意地』を通すおはなし

モブ冒険者と自覚する主人公とヒロインであるマーニャの間に、何があったのかを明かしていく王道ファンタジーのエッセンスを含んだ短編小説です。表明ともいえる作品名と冒頭の入りで、おはなしを聞かせて貰おうか?と興味を示す読者を最後までグイグイ引っ張り通す、熾烈な力強さを感じた作品でした。

『来たな、勇者』からの展開は、緊張感があってテンポも良いので目が離せません。モブのような、何者にもなれない者が運命を動かそうとする姿に奮い立つのは、平凡に生きる事を強制される世に身を置いているからこそ。シナジーを楽しむ文芸のエンタメは、これくらい大胆であるべきです!

勢いはとても良いのですが、やはり作品を期待する読み手として目に付くのは、文章構成の甘さです。人称設定が色々唐突なのと、基本的に展開はああなってこうなっての安直な羅列なので、物語世界として『完結』はしてても『完成』に届いてないのは歯痒い点。読まれる小説品質のコツを掴めれば、熱い物語にきっと多くの読者が付いてきてくれるだろうと期待を持てる作家様です。

絵本の勇者に憧れつつ、理想に届かずモブに落魄れる主人公が最後に見せる『意地』とは。ヒロインを行動原理とし、勢い任せで突き進む展開こそ、勇者の様式美だと納得させられる作品、ご一読あれ!!