「愛や恋と言っても、所詮は生殖器の結合に至る過程に過ぎない」というセリフをどこかで見たような記憶がある。
それはつまり愛慾であり、こころみに辞書を引けば「異性に対する性愛の欲望」とある。
では、愛慾に至る病とは、なんなのだろうか。
この作品は、ミステリーにジャンル分けされている。
だから、作品内では何らかの事件が起こり、その謎が少しずつ解き明かされていく。
だが、この作品の本質はそこではないと思う。
愛とは何か、そのひとつの問いを、主人公を通じて追いかけていくことにあると思う。
その問いを追いかけることが、すでにひとつの「病」である。
主人公の、じっとりとした湿り気のある、あるいは無機質な乾いた独白。
早熟なオスとメスが情動のままに溺れる交わり。
エロスとタナトスがぬらぬらと絡み合う心理描写。
そのひとつひとつが、愛慾に至る病の症状を構成し、やがてそれは愛のカタチを作る。
この、卑しくて美しく、気高くて醜悪な愛のカタチこそが、この作品の醍醐味だと思う。
――しかし。愛慾は、やがて絶望に至る。
その絶望の果てにあるものを、ぜひあなたの目で見てほしい。
それを「美」とするか「醜」とするかは、あなた次第だ。