第1章 なんか転生したんですが…婚約破棄もされました。

プロローグ 婚約破棄されました

「今、この瞬間!貴様との婚約を破棄し、この可憐な少女、エトワールと婚約をする!」


 なんて馬鹿げたことを言っているんだろうか、このバカ王子は。

 貴方が婚約と婚約していたのはナノポーラス皇国第七皇女であるミラージュ皇女だぞ。

 この婚約が破棄になればそれは皇国を敵に回したと言っても過言ではない。

 この国が皇国を相手に戦争する力はない。なんなら王はいつも皇国側に手を揉み続ける一方なのだ。


 ナノポーラス皇国の隣国、エスメラルド王国の国立学園の卒業パーティーでこの茶番劇は起こりました。

 周りには学生の方々がおり、汚物を見るような瞳でミラージュ皇女を見ています。

 このパーティーに出席しておられる国王と王妃はバカ息子がこんなことを言うとは知らなかったのでしょう。唖然としてこちらをみています。

 ミラージュ皇女は落ち着いた表情と声で、扇子で口元を隠しながら王子に聞きました。


「婚約破棄されるようなことは一切しておりませんが…理由をお聞きしても?」

「そんなこと言わなくても分かっているのではないか?」


 なんだこのクソガキは。

 皇女に対してなんっうこと言ってんだ。

 その怒りを抑えて聞いた。


「分からないので聞いているのです。納得のいく答えをお願いいたします」


 そう聞いてみると王子は「ふんっ」と鼻で笑い、隣にいるエトワール伯爵令嬢は彼の腕に胸をつけ、隠しているようで隠せていない笑顔をこちらに向けていた。


「なら答えてやろう。貴様は僕の愛するエトワールに様々な虐めをしてきた!その証拠はすでに揃っている。まさか皇国の皇女がこんなことをする輩とは思ってもみなかった。そんなやつより僕の隣にはエトワールがいるのが正しい!」

「ふむ…では私が行ったというイジメの内容をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「1つ目は彼女のパーティードレスをズタズタに切り裂いた罪だ。第1学年の歓迎会のときに着るはずだった彼女の真紅のドレスをその手でズタズタにし、パーティーに出られなくした。証拠は貴様の部屋の机に布のついた鋏が見つかっている!」


 確かこれは彼女の真っ赤なドレスがズタズタになっていたという話だろう。これについては冤罪だ…


「残念ながら、その日は我が父上、ナノポーラス皇帝の誕生祭であり、私もそれを祝うために帰国しておりました。そのことについては国王様と王妃様がよくご存知かと。あぁ、もし私の使用人がやったのではないかとおっしゃるのでしたらそれもあり得ません。私の使用人も同じく帰国しておりましたのであり得ません。それに、もし真っ赤なドレスをパーティーで着て行ったのならそれは伯爵令嬢はルール違反でしたよ。あの場は入学した第1学年の皆様が輝く場です。なので他の学年は派手なドレスは着ないルールです。なのにそのドレスを着ようとしていたのなら入場する前に止められていたでしょう。ちなみに、ハサミは私が手芸などで使っているものですのでよく布がついていることはありますよ」


 その言葉に一瞬で会場がざわつき始めた。

 周りにいる卒業生たちはただ噂に乗っかって皇女を責めているだけだ。

 勝手に自分が上に立ったような感覚に陥って誹謗中傷を浴びせてきた。

 ではもしその噂が嘘であり、その嘘に従って皇女を攻撃していたのでしたら彼らに待っているのは…地獄でしかないでしょう。


「くっ、なら彼女の教科書や筆記用具全てを焼却炉に捨てたのはなぜだ!焼却炉付近にあった靴跡は貴様の靴と一致していたぞ!」

「あら、私の靴が?ですがおかしいですね。私は皆様と同じ学園指定の靴を履いていました。なので別に私の靴と同じサイズの方のものなら勿論一致するのではないでしょうか?ですが…たしかその焼却炉で焼かれたという日、そこの伯爵令嬢の靴はいつもより大きく、何度か転けておられましたが…?」

「っ!それは本当なのか?エトワール」


 そう聞かれて完全に黙ってしまう伯爵令嬢。

 どうやら王子も彼女から言われただけだったのでしょう。

 それを鵜呑みし、ましてや皇女を陥れるとは…本当にいい度胸をしていますね?


「さて、では先ほどの身に覚えもなく、ましてや冤罪を着せられた私とは婚約破棄をする、という話で良いのですね?殿下。ではその通りに進めましょう」


 パチンッとセンスを力強くたたみ、皇女は力強く王子と泥棒猫を見つめた。

 ビクッと体を震わす2人。

 するとようやく国王が動き、皇女の目の前で跪いたのだ

 動揺するパーティー会場。

 なぜかその行動にキレ始める王子に、全てを疑われ、冷たい目線を刺される伯爵令嬢。

 ぐっちゃぐちゃの中に国王が話し始めた


「ミラージュ皇女様!どうかお許しを。全てはこの愚息が1人で決め、行った事故私も何も知らないのだ!だからどうか、どうかこの件については…!」

「うーん、実は、前々から私が冤罪を着せられていることを知っていたのです。なので…父上にはもう連絡してありますの」


 そして皇女は最上級に笑顔で言ったのだ


「我らがナノポーラス皇国第七皇女、ミラージュ=ナノポーラス様を侮辱し、ましてや契約であるこの結婚を無断破棄した。これは皇国との縁を切り、敵対すること。我々はそう捉え、もうすでに戦争の準備は整っています。さて、アホ王子、いい加減気が付きませんか?…って言っても無駄でしょうね。婚約破棄するほどなんですから」


 まるで他人事のように言いました。

 自分のことではないような、どちらかと言えば護る側の人間の言い方のような。

 おそらくこの場にいる方全員が理解していないでしょう。

 勿論バレるような生半可な実力ではありませんから…


「何を言っても無駄よ。契約のことも、皇国のことも何も知らないバカ王子なんですから」


 そういう声が会場の出入り口の方からしました。

 勿論全員が振り返り、余計にざわめきます。

 だってそこにはミラージュ皇女様がいらしたのですから。

 一つの会場に全く同じ人物が2人。

 訳のわからない状況の中でミラージュ様はニコッと笑って言いました


「ごきげんよう。王国の皆様。そしてさようなら。マニャーナ帰りましょ」


 そう言われた私は笑顔になり、はい!っと声をあげてミラージュ様の元へ駆け寄り、一瞬にして魔法を解きました。

 黄金に輝くミラージュ様の髪色と違い私の髪は黒と灰色の髪。白い同心円を描いた瞳を右目だけぱちっと閉じて言ってやった。


「残念ながら、貴方が婚約破棄を宣言したのは婚約者ではありません。私は『皇族の杖』ベンタブラック家の末娘ですので」


 バタンと思い扉が閉まりました。

 廊下にポツンと残された私たちはお互いの顔を見合ってクスッと笑い、言いました。


「さ、ミラージュ様。皇国へ帰りましょう」

「えぇ、そうね。ありがとう。マニャ」


 ミラージュ様の手を支え、私たちは母国へ帰るための馬車に向かって歩き始めました。

 さて、…エトワール伯爵令嬢でしたか、真っ赤なドレスが着れて、良かったですね


 後日、エスメラルド王国が皇国との戦争によって消え去ったことが大陸中に広まったらしいです

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