第3話 末っ子は最強なのです

 ぷにん

 ぷにんぷにん


 アルバと契約してすぐ。

 おっきな体を私が持ち上げられるくらいの大きさに変化してくれたアルバの肉球は最高でした。

 ソレイユの儀式をそっちのけで。

 だーって無理でしょこんなの我慢しろだなんて!

 中身アラサーなんだから癒しがないと生きていけないんですわ!


『マニャ、今は儀式に集中しましょう。ぷにぷには帰ってからでも馬車の中でもやらせてあげるから』

「分かった」


 そこでようやくソレイユがすんごいことをしたと言うことが理解できました。

 ソレイユの『神器』は『ソレイユブリヨン』と呼ばれる黄金の刀身を持つ片手剣。

 ですが問題はそこではありません。

魂ノ守護者ソウルガーディアン』が凄いのです。

 太陽のように美しく光る真っ白な鱗に包まれた竜、フラム。

 その竜はスカーレット家の家紋に描かれている双竜の片割れだったのです。

 前代未聞のこの世代。

 今儀式を完了した5人中3人がとんでもを起こしております。

 うーむ、実はマニャーナってとんでもキャラなんだけどゲームじゃたんまーにしか出てこなかったんだよね。なんでだろね?

 まぁ、そんなことは地中海あたりに捨てておいてと


 どうしよ、今からルナドールの儀式が始まるんだけど?

 え、止める?でも止めたら怒られるし、5歳にはできるできないの範囲がガバガバすぎる!

 あ、ルナ…


 弱々しいルナドールの背中がどんどん魔法陣の中に入っていきました。

 どうやらイベントは止められそうにはありません。


「…私の名はルナドール=スカーレット。希望を胸に、勇気を掌に、命の灯火をここに、王を守り、ナノポーラスの民を導き、赤き刃が輝く希望となるべく、精霊と神のご加護と力をどうか私に与えて下さい」


 ルナドールの静かな声が会場に響きました。

 彼女の髪は真っ赤に染まり、体が赤いオーラで包まれます。

 同年代にしては魔力量が桁外れなルナドールは苦しい表情を見せたり汗を流しやしませんでした。

 でも、不安そうでずっと目を強く瞑っています。


 光り輝く会場に一本の片手剣が現れました。

 真っ白に輝く刀身と黒色の装飾。

 まるでルナドールをそのまま剣にしたような『神器』でした。

 名前は『ニュイエテルネル』

 ソレイユは太陽

 ルナドールは月

『神器』もまさにそれを表していると言っても過言ではないでしょう。

 さて、問題はここからです。

魂ノ守護者ソウルガーディアン』契約の儀式

 ここで私はどう動くべきなんでしょうか

 ゲーム通りに行くのか、それとも…


「赤く煌めく魂をより一層輝かせ、美しき光を辿り、我が魂の友であり守護者たるものよ。この声を聞き、正しき道を歩み我が前に現れたまえ」


 その時でした。


「ひっ、へ?」


 ルナドールの小さな悲鳴が聞こえた瞬間、いきなり黄金の魔法陣が真っ黒に染め上がったのです


「きゃぁぁぁぁ?!なに?何よこれ!?」


 会場が地震のように揺れ動き、立っていられなくなりました。

 ですが私たちは公爵家であり、皇族を守る立場です。

 公爵家の人々は全員自身の主人の元へゆき、守りを固めました。

 勿論私たちもです。

 ミラージュ様を守るためにすぐに武器に手を取りました。

 ですがルナドールはあの魔法陣内から出てこれませんでした

 謎の結界のようなものが張られて出られないのです。


「なんじゃこれは!大神官!どうなっておる!」

「陛下!魔法陣が何者かによって乗っ取られました!これは…魔族です!」


 ドォォォォォォォォォン!!!

 魔法陣から紫と黒が混ざった光の柱が空に向かって放たれました。



「ルナァァァァァァ!!」


 ソレイユが叫び声を上げますが禍々しい柱のせいでかき消されてしまいます。


 どうしよう、本当に怒ってしまった…魔族が…来ちゃった…!


 光の柱がまるで何もなかったかのように消え去りました。

 美しいシャンデリアは跡形もなくなり、刃こぼれしたかのようにボロボロの円状に王の間に穴が開き、曇り空がこちらをのぞいていました。

 そこには紫色の禍々しいオーラを纏った、背中にコウモリの羽を持った男がいました。

 真っ赤な瞳に、白眼は真っ黒で、ニタァっと開く口には鋭い牙。

 人間のような姿ですがそれは魔族そのものです

 ぐったりと気を失っている彼女は魔族の腕に抱えられていました。


「ははは!この娘は我が貰っていくぞ!愚かな人間どもよ!」


 どうしよう、あれじゃぁ魔族を攻撃できない…どうにかして助ける方法は…でも、これはゲームの世界なんだよね、助けたらストーリーが全部変わっちゃう…でも…そんなこと…ううん、迷ってる場合じゃない。立つのよ、マニャーナ。友達を見捨てるなんてやって良いことではないわ。

 例えこれがゲーム世界であっても、誰かに意図的に敷かれたレールに従って生きていてもなんの意味もないわよ。

 ここからは攻略本にも攻略サイトにも書かれていない緊急ミッションよ!


「レイ、エル、オロス、ミラージュ様をお願い。私はルナを助けに行くわ」

「おい!本気かよ!相手は魔族だぜ?父上やお前の両親でさえ手こずる相手だ!俺たちじゃ勝てっこねぇよ!」

「じゃぁ友達を見捨てろって言うの?!そんなの友達じゃないわ!私はいくもの。でも、エル、お願いがあるの」

「…はぁ、良いだろう。『神器』の使い勝手が知りたかったところだ。頼むから馬鹿げた作戦はよしてくれよ」


 私はインビエルノのその質問に笑顔で返しました。


「勿論馬鹿げた考えよ。私があいつをやる。私をあいつの背後に瞬間移動させて欲しいの」

「…確かに馬鹿げてるが…お前なら出来るか。まかせろ。準備はいいな」

「もっちろん!ベンタブラック家の末っ子を舐めないで!」


 中身は乙女ゲー好きのアラサーだけどー


「いくぞ」

「やっちゃって!」


 シュバッ


 ふぉぉぉぉ!凄い凄い!本当に瞬間移動した!

 私が移動したのは魔族の何十メートルか上空。ここからなら狙える。

 魔法で完全に気配を消してきたからバレることはない。

 ルナドールには当てないように、慎重に…


「『アラクネ』、力を貸してね」


 すぅぅぅはぁぁぁぁぁ


 魔族の急所は大きく2つ

 まずは4つある心臓。そして胸にある赤い魔石だ。

 貴族級の魔族の魔石は魔法使いにとって高級品だ。

 あれをうまーく切ればいけるかな?多分インビエルノにあげたらこの手伝いはイーブンで終わるはず。

 じゃぁ心臓全消しコースだね。

 地上に仕込んでおいた糸をーーーえい!


「この娘ならあのお方も満足するだろう。くくく、ではもらってゆくぞ!さら…がはぁ!」


 透視化魔法っていうのは何に使うんだろうって思いますよね?

 誰かの鞄の中身を覗くことでも、誰かの下着を見ることも、そんなのはアホらしい考えだと思います。

 でも、暗殺者からすればその魔法なしでは潜入や暗殺は難しいと思いました。

 昔、父様とおさまから言われたのですが、魔族の心臓の位置は一体一体違うらしく、透視化魔法を持っていないと相手の魔石を壊す以外に道はないらしいのです。

 まぁ、私たちベンタブラック家は『魂ノ守護者』が狼なので透視化魔力が備え付きで生まれてくるので、あとは実力次第ですね。


「ってあぁぁぁぁ!ルナァァァァァァ!」


 まずい!ルナドールを避けて魔族をやったせいで救出のこと忘れてた!

 どどどどどどどどどどどどどうしよぉぉぉぉぉぉ!?


『マニャ、落ち着いて下さい。あれをみて』


 ふわっと落ち始めた私を大きなアルバが受け止めてくれた。

 もふんと毛に引っ付き、私はルナドールが落ちた方を見た。

 そこには星のない夜のような美しい黒色の鱗に身を纏った竜、リュンヌ。

 スカーレット家の家門に描かれている双竜の片割れ。

 彼女がルナドールを上手くキャッチし、優雅に飛んで青空教室になった王の間に降りた。

 すぐにソレイユと2人の両親が近寄り、気を失ったルナドールを抱き抱えて涙を流していた。


「…よかったぁ。ルナも無事で、ルナの家族も喜んでて」


 でも、これでゲームのレールが逸れた。

 今後原作通りに進むか分からなくなった。

 私の知っている未来ストーリーが変わる。

 正直不安でしかありません。

 でも…大切な親友を、守れたことに悔いはありません。


『マニャ、さすが我が主人ね。でも、なんでそんなに残念そうなのかしら』

「んにゃ、残念じゃないよ。ただ…」


 アルバには、転生のことを伝えた方がいいのかな?なんてったって、『魂ノ守護者ソウルガーディアン』なんだし…うーむ


「んー、帰ったらお話しするね。今は、みんなの場所に行ってもいいかな?」


 下を見たら、みんながこちらに手を振って待っていた

 今は、言えなくたっていいや

 また、いつか、私の秘密を伝えられる日が来たのなら、その時は…


「アルバ、行こっか」

『任せて。安全に地上に送ってあげる』

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