第4話 七瀬朝の死因

「ぷっはぁ!オレンジジュースおいし〜!」

『お酒を飲んだおっさんみたいよ』


 そりゃぁ中身はアラサーですからね。


 あの後、スカーレット家の人達全員から感謝を伝えられて、なんなら恩人扱いされて何かあったら助けになってくれるらしい。

 一方ベンタブラック家…特に両親と兄2人からは盛大に怒られた。無謀にも程があるって。でも、結局はそれは心配だった。『アラクネ』に選ばれたからじゃない。娘だからです。兄2人からはゲンコツくらわされました。なんなら勝手に動いたせいで両親からは3日間部屋から出るなと言われました。なんなら専属メイドであるカペラが監視役として常に一緒にいる状態。まぁ、脱走しようと思ってたんだけど…しょうがないかぁ。


 現在謹慎2日目。

 もうそろそろ飽きてきました。


「マニャーナ様、他に欲しいものはありますか?ポラル様もメディアノチェ様も謹慎だと言われましたが、私は今回のこと、本当に誇らしく思っております。他のメイドたちも言ってました。マニャーナ様はベンタブラック家の誇りだと!」

「そんな、持ち上げすぎだよ。私はただ友達を助けたかっただけだし、それに、お爺様は逆に変な恨み買っちゃったし…どうしよ」


 実はあの後、当主であり祖父でもあるジジイに呼ばれ、案の定嫌味を聞かされました。殆どは左耳から出ていって覚えていませんが、とにかく1時間聞かされた嫌味を濃縮すると「『アラクネ』をよこせ」でした。

 勿論その場にはアルバもいました。

 巨大化しそうになったのを一生懸命抑えてもらいましたが相当キレていたはずです。

 初代ベンタブラック家当主が契約したとされる女神、ネグロス様は糸を操るだけではなく夜を司る神でもありました。狼族の頂点である夜狼族は彼女を信仰しているため、キレるのもしょうがないかなと。


『従う必要はありません。マニャが『アラクネ』を授かったのはマニャの実力とネグロス様のご意志。あんな横取りするようなクズ野郎には必要ありません。命じてくれたら私がひっそりと殺してあげますよ?』

「それなら私にだってやれるよ。もう『アラクネ』は仕込んだし…ぺっ!ってやったら死ぬよ」

『さすがは我が主人』

「そうですよね!マニャーナ様は凄いお方なのです!5歳ながら天性の才能を持っておられ、0歳の時には解読困難な本を読み漁り、ハーフアニバーサリーでは文字も書けるようになり!透明化魔術で姿を消しては屋敷の者全員で探し回っておりました!そして今回『アラクネ』に選ばれ、女神の守護者でもあり、夜狼族の長であるアルバ様と契約されました。つまりマニャーナ様は神童なのです!」

『ふふふ、あなたとは気が合いそうね。カペラ、今度マニャの幼い頃のことを教えて欲しいのだけど…』

「お任せ下さい!秘蔵アルバムも出しちゃいますよ!」


 まって、秘蔵アルバムってなんですか。

 そんなの私知りませんよ?

 っていうか私が目の前にいるのにそこまで熱弁しないでください恥ずか死にそうです。

 あーもー!


 ボフンっと枕に頭を隠して顔を見せないようにしました。

 それにふふふっと笑うカペラ。


「それではマニャーナ様。カペラは今日のデザートを取りに行ってきますね」


 そう言ってカペラは部屋を出ていった。


 よし!今がチャンス!


「アルバ、あの時言ってた、話したいこと、覚えてる?」

『家で教えるって言ってたことでしょう?ようやく教えてくれるのかしら?』

「うん。えっと、信じてもらえるか分からないけど…」


 大丈夫。きっとアルバは信じてくれるはず。

魂ノ守護者ソウルガーディアン』は守護する者の嘘が分かる。体から溢れ出る感情のオーラでその時の気分や体調などが分かるらしい。


「えっと、アルバは転生って知ってる?」

『えぇ。ネグロス様を含めたこの国の5柱の神々が気まぐれによって魂に新たな器を与えさせる。それがこの国においての転生』

「じゃぁ、私が転生者だって言ったら信じてくれる?」

『…』


 私でも分かるくらいにアルバの目が開いた

 まぁ、そりゃそうなるよね。私だってそうなりますから。


「私には前世があるの。前世はこの世界と違う場所。日本って言って、私はそこで暮らしていたの。名前は…七瀬朝。響き的には霜降そうこう国と同じかな。仕事は子供向けのおもちゃ開発会社。でもそこがブラックで、ある日、久しぶりに家に帰ろうと思ったら猫がいたの。真っ白な猫が、道路の真ん中を歩いていて、そしたら居眠り運転をした車が突っ込んできて、猫を助けたら死んじゃったの。で、気がついたらマニャーナに生まれ変わってた」

『…っはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』


 え?!なんでそんなおっきいため息つくんですか?!え、出鱈目だと思われてる!?


『ごめんなさい、誤解しないでちょうだい。まさか…マニャが被害者だったのね』

「へ?」


 なんですかその知っているような言い方は。

 もしや七瀬朝が死んだのは…


『まず、転生は信じるわ。誰かが転生してきたというのは神々から聞いていたから』

「私の死は神がらみってことですか」

『そういうことよ。インミン家の初代当主が契約した女神、キュアノスは守りの女神であり猫の神。その…ナナセアサが助けようとしたのは彼女の猫よ。別世界に紛れ込んでしまってその世界の人間を巻き込んでしまったとは聞いてたけど、まさかあなたが被害者だなんて…本当に頭が上がらないわ…』

「そんな、アルバは悪くないでしょ?頭を上げて。でも、そうなると神様たちが私をお詫びとしてこの世界に転生させてくれたの?」

『そうよ。ナナセアサがこの世界に転生したいと願ったから、魂が完全に定着したその体に生まれ変わったそうよ』


 そうなんだ…なんか死因を知れたし転生は偶然じゃなかったってしてたからよかったかな。

 まぁ、とにかく続きだ


「この世界に転生したいって思ったのは事実なの。七瀬朝の頃にプレイしていた乙女ゲームっていうのがあるんだけど…えっと、この世界で分かりやすく例えるなら小説かな。そのストーリーの舞台がこの世界で、その主人公がミラージュ様なの。私はそのゲームのプレイヤーで、ゲームを最後までプレイしたの。だから、今後この国がどうなっていくのかも知ってる。でも、問題があって…」

『もしかして、スカーレット家のお嬢さんが魔族に連れ去られかけたのをマニャが救出したけど、ストーリーとしては本来そのまま彼女は連れ去られてしまう予定だったってことかしら』

「そうなの。私がストーリーを変えちゃったから、今後の展開が分からなくなっちゃって」

『ふむ…つまり不安なのね。でも、大丈夫よ。敷かれたレールに沿って行くだなんて勿体無いわ。あなたの思うように、やりたいようにしていきなさい。私は何があってもあなたを守るもの』

「アルバ…」


 すっごく嬉しかった。

 信じてもらえないと思っていたのに、信じてもらえた。

 私はきゅっとアルバを抱いた。

 もふもふに顔を埋め、ちょっとだけ、泣いた。


「アルバ…中身アラサーな私だけど、どうかよろしくね」

『えぇ。いくらでも守ってあげるわ。私の愛しい主人様』

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