第5話 謹慎最終日のこと

3日間の謹慎最終日

 もうそろそろ推しを補充しないと死にそうです。ミラージュ様かルナドールと合わせてください。



 ベンタブラック家のおっきい屋敷の私のおっきい部屋で、5歳を演じるためにお絵描きという名の魔法陣描きをしました。

 七瀬朝の時は保育園の先生を目指していたこともあってかピアノもできましたし細かいものも作れたりしました。ですが残念ながら私にはある2つの才能がないがゆえにあの仕事についたのです。

 じつは私、絵と歌が壊滅的だったのです。

 なんでピアノが弾けるのに歌が歌えないのかと散々言われた記憶がございます。

 絵は感性が独特すぎると言われました。

 その才能はマニャーナになっても健在しており、兄2人からはめちゃくちゃに笑われました。

 なので私は本を読み漁り魔法陣をクレヨンで描くことのしたのです。まぁ、それがバレて余計に神童だって騒がれたのですが、今は落ち着いています。


「マニャーナ様、相変わらず綺麗な魔法陣ですね!それはなんの魔法陣でしょうか?」

「えっとね、五重魔法の陣!」

「…へ?」

「だーかーらー、五重魔法の陣だよ。赤は炎、青は水、緑は風、白は光、黒は闇魔法。ほら、詠唱じゃ二重が限界でしょ?だから、魔法陣ならできるかなって」


 なんらおかしくない考えじゃないかな。

 詠唱が無理なら魔法陣に魔力を込めたらいいのでは?

 ほんじゃやってみよう。

 えーっと、魔力を込めて…でも最小限に…えい

 ぽん!

 魔法陣からそれぞれ炎、水、風、光、闇が出てきた。それらを自分のイメージに合わせて形を変える。

 炎はライオン、水はクジラ、風は鳥、光は蝶々、闇は狼。

 うん、上出来かな


「……アルバ様、どう思いますでしょうか」

『考え方が流石というか…それを成し遂げるだけの魔力のあるマニャが凄いわね…』


 うーん、でもこれじゃぁ毎回紙に描いて魔力を注がないといけないから戦闘向きではないよね…闇魔法で気配と光を抑えながらやったら暗殺にも使えるし…そうだ、空中に魔法陣を作ってみたらいいんじゃないかな?やってみよう。


「えーっと、父様とうさま母様かあさまにバレないように中から外への消音魔法をかけて、壁の強化バフもかけてっと…よし、やってみよう!カペラ、アルバ、ちょっと離れててね」

「へ?何をするおつもりですか?!また何かやったら怒られ…」

「マヒア・エチソ・リアマ・アグア・ビエント・ルス・オスクロ・チスパ!」


「マニャーナ?失礼しますわ」


 突然扉が開き、誰かが入ってきた。

 聞き覚えのある声。

 入ってきたのはミラージュ様。そして護衛のインビエルノ、オロス、ソレイユ、ルナドール。そして…


 まずい!父様と母様!


「…マニャ、何をしているんだ」

「あっ、あぁぁぁぁぁぁ、と、ととととと父様…こ、これは…」


 ちょうど全部の魔法陣が浮かび上がった瞬間だった。

 なんだろ、実験のは成功したけど怒られる未来が…


「あ、あぁ、あぁぁぁぁ、あ、あ、アルバぁ!」

『残念ながらそれには応えられそうにないわ』

「裏切り者ぉぉ!」


「…カペラ、どういうことか説明してくれるかしら?マニャちゃんがあんなだから…」

「はい、奥様。まず始まりはマニャーナ様が描かれた魔法陣です。五重魔法陣を描かれ、一回で成功いたしました。その上、これでは効率が悪いとお考えになり、空中に魔法陣を描くという発想になられ、試しておられたところです」

「じゃぁ魔法の発動一歩手前ってことね。それにしても、これだけの魔力をよく外に漏れないように出来たわね。それにも驚きだわ」

「二重詠唱が限界だとわかっていて、そこで五重詠唱ではなく五重で使うために空中に魔法陣を描くという発想は素晴らしいが、大人しくできないのかお前は」


 別に大人しくしてなさいとも言われてないような…


「ほぉ、久しぶりにしごいてやろうか」

「多分今やったら私が勝つような…」

「やるか?」

「ごめんなさい」


 父様は怒らせちゃダメだ。

 無表情なんだけど圧がすっごいの。

 5歳に向けるような圧じゃない。

 ほらみてください、ミラージュ様を。怯えきってるじゃないですか。インビエルノとオロスまで怯えてるじゃん。

 ゲームでも、父様は怒ったらすっごく怖かったです。あれはマニャーナの回想シーンでした。画面越しでも怖かった記憶があります。


「…だって、3日間は長すぎだもん。だから実験してただけだもん…」

「…まったく。皇女殿下がお前を心配して来てくださったのだ。挨拶をしないか」


 あ、そうだ。推しが来てくれたんだった。


「ミラージュ皇女殿下わざわざお越しくださりありがとうございます。お出迎えできず申し訳ございません」

「うぅん。急に来ちゃった私も悪かったわ。マニャーナが家で謹慎中だって聞いて退屈してるだろうなって思って。みんなも一緒よ」

「よ、マニャーナ。謹慎中でも暴れてんのかよ、アホだな」


 そう言ってみんなが近寄ってきてくれた。

 オロスの余計な一言に一発ゲンコツを入れてと。

 誰がアホか誰が。オロスの方がバカでアホで間抜けでしょうが


「あぁ?!だからって殴る必要ねぇだろ!お前女のくせに力が強いんだよ。ゴリラ女め!」

「アルバ、食べる?」

『美味しくなさそうなのでいりません。その代わりぐちゃぐちゃには出来るわよ』

「すんません、お許し下さい」


 まったく。余計な一言とアホな発言をやめたらいいのに。

 さてと


 ひょこっと私はソレイユの後ろに隠れているルナドールを見つけ出しました。

 目が合うとハッとして何かを言おうとして、すぐに迷って、覚悟を決めたのかようやく口を開きました


「あの、マニャ。あの時は助けてくれてありがとう。おかげでみんなと一緒にいられる。マニャには感謝しても仕切れない。だから、私は…ボクは決めた」


 ルナドールはどこからともなく『神器』を召喚し、手に取った。

 あれ?今ボクって言った?

 確かゲームじゃ幼少期は私で竜の里から帰ってきたらボクに変わってたはず。

 ゲームのファンブックでは…そう、彼女が覚悟を決めた時に一人称が変わるって書いてあったはず。ということは…?


「大丈夫。ミラージュ様に誓いはしたし許可ももらってる」


 ルナドールは『神器』を前にだしました。その瞬間、髪色が真っ赤に変わった。魔力がオーラとなって体を纏い、『神器』から白と黒が混ざったオーラが出てくる。

 見てすぐにわかった。確信した。


「ボクは、君の剣となろう。この魂がある限り、君のことは命をかけてでも助ける。何かあったら、君がどこにいても助けるよ」


 赤き心臓の誓いだ。

 自身の剣に魔力を込めて、誓いの剣とする、スカーレット家に伝わる契約。

 契約者を守る際にとてつもない力を発揮する。その代償に誓いを破ると剣に操られたようにその刃を自身の心臓に突き立てることとなる。

 確かストーリーの中じゃ、たった1人だけ、誓いを破って自害した人物がいたはずです。

 ただ、誓いを成立させるには相手が承諾しなければ発動しません。

 さて、どうしたものでしょうか。


((あら、悩んでるの?マニャ))


 んえ?え、アルバ?


((念力よ。契約者同士なら使えるの。で、どうするの?誓いは受ける?前世で見たのはどうしていたの?))


 あいや、それが私が知らないストーリーなの。ストーリーじゃルナドールが誓いを交わしたのはミラージュ様だけだったから…


((早速ストーリーが変わったってことね。じゃぁ快く受け取ったらどう?マニャにとっても悪い提案じゃないでしょう))


 でも、破った時の代償が大きすぎるよ。だから、私は受けない。


((その選択はマニャに任せるわ。私はあなたに従うだけだから。まぁ…ひとつ言うなら…あなたを守るのは私だけで十分よ))


 なるほど、守護者の嫉妬ですな。あとで目一杯もふってあげるからねー


「…ごめんね、ルナ。私はその誓いを受けないよ」


 答えるとすぐにルナドールのオーラが消え去った。

 ルナドールは驚いて、すぐにため息をつき、いつも通り薄い笑いで聞いてきた。


「理由を聞いてもいい?」

「うーん、第一に、もしミラージュ様と私が同時に助けを求めたら、それは片方は守れないから、結局ルナが代償を受けちゃうでしょ?それはダメ。で、第二に、私はそう簡単にやられるようなやつじゃないよ?こう見えてとっても強いんだから!それで、第三に、私はルナと友達でいたい。だから、赤き心臓の誓いなんかじゃなくて、お互いの約束にしよ。私はルナが困ってたら助ける。だから、ルナも私が困ってたら助けてくれない?」

「…!…うん。じゃぁ、ボクももっと強くなるよ。マニャよりね。だから、その時にはまた誓うとするよ。その時は、受けてね」


 うっ


((マニャ?どうしたの?))


 ヤバい、推しがイケメンすぎて、うっぅっぅ


((あらら…))


 ふーーうん、よし


「その時は、まだ私の方が強いかもね」

「大丈夫。それはない」

「うん、まぁ、うぅぅ?」


 まずい、否定できるようでできない。

 スカーレット家の戦闘能力とベンタブラック家の戦闘能力の成長速度には差があります。スカーレット家は戦闘…特に剣術の名家。対してベンタブラック家は暗殺術の名家。

 うーむ、どうしたものか…


「ルナもマニャもどっちとも成長しても絶対俺よりは弱いぜ、俺らインミン家が負けるわけねぇからな」


 いきなりオロスがそんなことを言い始めました。

 それに続いてインビエルノが


「戦闘に関しては負けるが、知識で言えばシェーレ家だ」

「確かに、知識面は完全にシェーレ家の独走だよね。あ、でもインミン家は知識面ダメダメだよね、頭が筋肉というか…」


 まさかのソレイユも参戦してきちゃった


「あぁん?!防御面と戦闘面は俺らが一番だ!」

「残念だけど戦闘面は完全にスカーレット家だよ。インミン家の誰もスカーレット家の剣撃には勝てないじゃないか」

「暗殺面は完全にベンタブラック家だよ?それを考えたら戦闘面も上位じゃないかな?」


 そう言い合う私たちの後ろで、ミラージュ様とルナドールはと言うと…


「私はみんな強いと思うのだけど…」

「一応、戦闘面に関しては国民が楽しむため、と言うのも兼ねて公爵家対抗戦闘能力大会では毎年スカーレット家、インミン家、ベンタブラック家、シェーレ家の順番になっています。ですが、ベンタブラック家は表向きは魔術の名家として知られていますので、そのことを考えたらおそらくインミン家より彼らの方が強いかと…」

「うーん…あ!分かったわ!」


 パン!っとミラージュ様が手を叩き、全員の目線がそちらにいきました。

 そして笑顔でこう言ったのでした。


「そうやって言い争うのなら、『神器』の練習を兼ねてあなたたちの実力をはかってみない?」

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