第23話 トラウマからの脱出

そこには赤く血で染まった腹部を抑え壁に寄りかかる青葉の姿があった。

「青葉が撃たれてるぞ!」咄嗟に倒れる青葉を発見した南条は畠山に聞こえるよう叫んだ、その突然の叫び声に驚いたかのように、慌てて後ろを振り向いた畠山は放心した表情になっていた、「青葉が撃たれてる!、どうにかしないと」南条は決死の作戦を考えるよう伝えたが、そんな考える余裕もなく、敵の弾丸が二人の方へと放たれてきた、「畠山!壁に伏せろ」そう叫ぶと畠山は急いで壁に身を隠したその数秒後に、壁へと弾丸が撃ち込まれた、「はぁ‥はぁ‥」壁に幾つもの穴が空けられていくのを見ると思わず畠山は心臓の鼓動が早くなっているように感じ、かなり焦り始めた、「このままじゃ、三人とも全滅しますよ!」怯えながら銃を構え、後ろにいる南条にそう言い放った、南条は必死にこの窮地を乗り越える策を考えていたその時、敵が迫ってくる廊下の奥で、南条がよく知る見覚えのある人物が歩いてくる姿が見えた、南条はその人物を見ると一度考えるのを止めた、こちらにゆっくり歩いてくる人物は、もうこの世にいない筈の妻の雫であった、「どうして雫がここに、」ふとその姿に目線を向けていると南条は意識が遠退くかのように武器を下ろて壁から出ようとした、「南条さん‥貴方の奥さんはもう死んでるんですよ‥!」青葉は座り込んで出血する腹部を抑えながらどうにか南条の目を覚まそうと呼びかけた、「これまで君にどれだけ会いたかったか」 「目を覚まして下さい南条さん!、南条さん!」

ふと横で耳にする青葉の呼び掛けに南条は迷いを見せた、「あなた‥早くこっちに」前に現れる妻が一緒に来るよう言いかけてくる、「娘の早姫ちゃんが待っているんですよ!」   「あなた、」  「南条さん!」 揺れる二人の言葉に南条はその場で叫んだ、そして南条は涙を流して下ろしていた銃を振り上げ、前に立つ妻の雫に銃口を向けた、「ごめん。君のもとに行くのは未だもう少しかかりそうだ」そう告げると南条は一発引き金を引いた、放たれたその弾丸は幻覚の妻をすり抜けて廊下内に設置されていた消火器に命中した、次の瞬間、その場で爆発が起きた。



ふと目を覚ますと、辺りは爆発による影響で煙が撒かれ、よく周りの景色が見えない、そんな中、先に目を覚ましていた畠山が弱りきった青葉の肩を担いで歩く姿を見つけた、「あと数分後に東堂は仕掛けられた爆弾で、爆死することになる」その事実を思い出した南条は何の考えもなしに、無意識で立ち上がり畠山のもとへ駆け寄った、「南条さん!よかった未だ生きていて」

「今のうちにここを離れるぞ」煙により視界が悪い状況の中で二人は青葉を担いで歩き続けた、「ヴヮアァァ!」歩いてる途中では、青葉が余りの痛みに悶え苦しむ様子があった。

五分後、三人はホテルのエントランスとは逆の裏口付近へと辿り着いた、裏口の扉が見えると南条は一度青葉の肩を下ろし、扉横に設置された応急箱を取り出した、すると畠山も青葉を寝かすようにゆっくりと肩を下ろした、「すぐに包帯で手当てしないと青葉は助からない!」南条は険しい表情を浮かべながら応急処置に取りかかった、しかし、畠山は腕時計で時間を確認した、「南条さん、高橋さんが部屋の窓から脱出したのはいつでしたか?」そう問いかけられると南条は時計を確認した、「あと二分後だ、」すると南条は応急処置の手を止めて立ち上がった、「後で車で迎えに行く、青葉を任せたぞ」南条は強い口調で畠山にそう伝えた、「わかりました!」そう応答すると南条は小さく頷き、扉から出ていった。

扉から出ると南条は全速力で爆弾が仕掛けらておいる車両の方へと向かった、走る間南条は、あの日目の前で目撃した炎が脳裏に浮かび始めてきていた、南条はもう一度あの光景を見るのではと恐怖を感じながらも、無我夢中で走り続けた、やがて高橋と東堂が窓から降りた場所へと曲がると、「ガシャァァァン!」突如部屋に設置されている筈のテーブルが上から地面に落下して破壊される瞬間を目撃した、「 ! 」壊れたテーブルの側では、地面に踞る高橋の姿と、それを心配して駆け寄る東堂の姿を発見した、「まだ間に合う!」

そう心の中で囁くと二人のもとへと再び走り始めた。

「教授!お怪我はありませんか!」近くへと止められていた黒のワゴン車から二人のエージェントが東堂の方へと駆け寄ってきた、「高橋君!しっかりしろ!」やがて東堂は二人のエージェントに肩を掴まれ、車に乗るよう促したが、東堂は高橋を心配して車に乗ろうとしなかった、すると、目を瞑っていた高橋は小さく笑みを見せて目を覚ました、「私はまだ死んでませんよ、フッ」高橋は咄嗟に自分は心配ないと伝え、二人のエージェントへすぐ車に乗せるよう命じた、東堂は安心したように立ち上がると、ワゴン車が止められた方へ歩き始めた、「止めろ!止めろー!」南条は激しく息を切らし無我夢中で走り続けた、「さぁ、乗ってください」車の扉が開き乗り込もうとしたその時、東堂はまだホテルの部屋の中で戦い続ける南条の方を見上げた、そして前を振り向き直し車内に乗り込んだその時、「ガチャン、」

運転席に座るエージェントへ銃口を向けた南条が東堂の前へと姿を現した、「ど、どういう事だ、?」南条は激しく息を切らして運転手に車を降りるよう警告をかけた、「どうして君がここにいる!君はまだあの部屋にいる筈だと思っていた」困惑する東堂に眞鍋は安心したような目で見つめていると、横から何者かが自分に銃口を向けられているのに気がついた、ふと横を振り向くと、銃口を向けていたのはまさかの高橋であった、「お前誰だ!」すると高橋は懐から通信機器を取り出した、「間違いなく、南条は未だあの部屋にいる、なら今目の前にいるのは誰なんだ、」そう話すと高橋はレバーを下ろした、「今すぐ武器を捨てて応えろ!」南条が今目の前に映る仲間は、目の前で殺害されるのを見ている、南条は複雑な心情で高橋を見つめた、「俺は南条だ、お前も教授も助け出したい、何としてでも」そう応える南条に高橋は困惑した様子を見せた、その時、思わず目線を外していた運転手が南条を蹴りつけて銃を奪い、すぐに東堂を撃ち殺そうと銃口を向けた、「バーン!」

発泡した瞬間、その場はでかい銃声音が鳴り響いた、「東堂さん!」ふと東堂の方へと振り向いた時、東堂に向けて発泡した筈の運転手が胸元を撃たれてるいるのに気づいた、運転手はそのまま地面へと倒れ死亡した、「危ないところでしたね、」ふと声のする方へと振り向くと、そこには青葉を担いで歩いてきた畠山が銃口を向けていた、「お前、どうしてここまで来た?」

「敵が迫ってきまして、あの場に残っていたら二人とも殺られてました」   そう話すと畠山はワゴン車のシートに青葉を座らせた、「お前ら同業者か!? 」次々起こる突然の事態に、状況が理解できない高橋は銃を向けたまま畠山に問いかけてきた、「えぇ、勿論。あなたが考えている事は、我々も同じような考えです」畠山は優しい口調で高橋にそう応えた、「理解できないと思うが、今だけは武器を下ろしてくれ」南条は混乱する高橋に目線を向けて下ろすよう手で促した、緊張が走るなか、高橋はグッと息を呑み込むと銃をゆっくりと下ろした、すると南条は表情が軽くなったように笑みを浮かべた、その時、「ダダダダダダダ!」突如として南条達に向け敵組織が発砲してきた、「頭を伏せろ!」すぐさまワゴン車の外にいた南条、高橋らは姿勢を低くして敵に発砲し始めた、その隙に、先に乗り込んでいた畠山はワゴン車のエンジン部分に仕掛けられた爆弾の解除へと取りかかり始めた、畠山は前から襲ってくる弾丸に恐怖を感じながらも急いで仕掛けられた何重ものコードを取り出した、「グゥフ、」突如口から血を吐き出した青葉は、どうにか意識を保って横のシートに置かれたままの拳銃を手に取った、「君何してるんだ?」偶然拳銃を手に取る姿を目撃した東堂は、青葉に問いかけようとしたその時、突如青葉は東堂の方へと上半身を飛び込み、座席の下へと頭を下げた、三秒後、二人が座っているシートから銃弾が飛んできた、「プス、プス」ふと東堂は上を見上げるとシートには二ヵ所穴が空いていた、「グゥフ、ゥゥ」またも血を吐き出した青葉だが、激しい痛みを耐えながら拳銃で応戦し始めた、「教授は、頭を下げていてください…」青葉はそう言い告げると、すぐに敵の方へと発砲した、車のドアを盾にして応戦する南条と高橋は段々と増え続けていく敵の猛攻に限界が近づいてきていた、「畠山!爆弾の解除はあとどれくらいだ?」

南条は畠山に叫びながら問いかけた、「あと一分で解除できます、それまでどうにか凌いでください!」

「クソ!まだ一分もかかるというなら俺達は持たねぇぞ」 高橋は愚痴を溢しながらも無我夢中で引き金を引き続けた、この一局は皆が耐え続ける事のみが我々の勝利、南条は必死にそう心の中で言い続けた、すると、「カチ、カチ」突如として高橋の拳銃の弾が尽きてしまった、落胆しながらドアに隠れる高橋には希望が薄れかけていた「もうこれ以上は無理だ!」二人はもう諦めかけていたその時、「解除出来ました!!」

ようやく待っていた畠山の声が聞こえた、「すぐに乗ってください!」畠山は頭を伏せながら後部座席へと移動した、南条と高橋は車に乗り込もとするも、敵の弾丸が止むことがなく、乗り込むタイミングが掴めなかった、「高橋!俺が拳銃で気をそらせる、発砲したタイミングで車に乗り込め!」   「あぁ、でもお前はどうするんだ?」高橋は質問を聞き返そうとするも、その隙はなく南条はすぐに決行を開始し始めた、「バン!バン!」2発弾丸が撃ち込まれたその隙に、高橋はワゴン車の運転席へと乗り込んだ、「南条!お前も早く乗り込め!」すると南条は驚くような事を言い始めた、「車を走らせろ、早く!」高橋は考える暇なく南条の言う通りにエンジンをつけ、そしてアクセルを踏み込んだ、ワゴン車が発車し出すと南条はドアから手を離してワゴン車の後ろに隠れて走り出した、「クソ、どうすればいい!」高橋は決死の状況に混乱していると、突然畠山から冷静になるようにと言われた、ふと後ろを振り向くと畠山がワゴン車のバックドアを開く姿があった、勢いよく上へと開いたバックドアの中から畠山が手を差し出した、南条はもうダッシュで畠山のもとへと走った、「あともう少しです!」   「ダダダダダダダ!」ワゴン車から弾が撃ち込まれてくる、「あともう少し!」

次の瞬間、南条の手を取った畠山は、一気に手を引っ張ってワゴン車の車内へと南条を運び出すことに成功した、「よし!」高橋はそのままハンドルを握ったまま運転を続け、ワゴン車はホテルから離れていった。

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