第8話 見えなかった過去

午後2時、サンフランシスコに向かっていた青葉は、ムシーナの葬儀が行われるグレース大聖堂の前へ辿り着くと、改めてスーツを整え教会の中へと足早に入っていった、広い庭園の花に囲まれた細い道を通っていると、やがて式を行っている建物が前に見えてきた、「ここか、」青葉は扉を開けようとしたその瞬間、中から声が聞こえてきた、その声に耳を澄ませながらゆっくりと扉を開き中に入ると、既に教会には何人もの親族が教誨士の話しに目をつぶりながら聞く人々や、涙ぐみながら耳を澄ます人々で席に座っていた、青葉は空いていた後ろの席にゆっくりと座り込み、しばらく教誨士の話しが終わるのを待った。


「本当にあそこにいたんですか?」 その頃南条は畠山と共に車で再び、加藤が潜伏していたビルの前へといた、「間違いなくあそこにいた」助手席の窓からビルを見つめる南条の目は嘘のように畠山は見えなかった、「なんとしてでも加藤の動向を調べないと行けない、合流場所はここで頼むぞ」 「南条さん、またリセットするのはやっぱり危険ですよ」畠山は不安げな表情でそう呟いた、「あの時、あの場所にはあなたかいたんです、もし次のリセットでもう一人の自分に遭遇してしまったら、存在自体が消滅してしまいますよ」危険だと言い続ける畠山の言葉を受け入れながらも南条の意思は変わらなかった、「心配いらない、策はある」 そう言い放つと南条は車から降り、その場から去っていった。



一時間後、教誨士の話が終わりやがて親族によるムシーナの最後の別れをしている間、青葉は一人教会の中に残っていた、「フー、そろそろかな」立ち上がろうとしたその時、教会の前の席にまだ一人ムシーナの親族が残っているのに気がついた、青葉は思わず気になって前に座る人物を覗くと、女性であることがわかった、そしてその女性がムシーナの妻であることが後から理解した、彼女の様子は静かに考え込みながらじっと前の像を涙ながらに見つめている、咄嗟に青葉はゆっくりと前の方へ歩きだした、「Are you ok?(大丈夫ですか?)」青葉は優しい口調でムシーナの妻に話しかけた、突然の事に驚いた彼女だったがすぐに正気を取り戻し、話しかけてきた青葉に思わず涙を拭いながら問いかけてきた、「Sorry、It's hard to accept. Who are you?(ごめんなさい、未だ受け入れられなくて、あなたどちら様です?)」 すると青葉は一度咳き込んで応えた、「I was taken care of by my husband at work before(以前ご主人に職場でお世話になった)」 話しの途中で青葉は懐のポケットから名刺を取り出し、彼女に手渡した、「Now working as a diplomat, I'm Aoba.(今は外交官に勤めている、青葉と言います)」 彼女は渡された名刺にじっと目を通した、「Actually, I'm investigating the death of my husband(実はご主人の死について調べておりまして)」 するとその言葉に彼女はすぐに反応し、顔を上げて青葉の顔を振り向いた、「After all my husband was killed by someone(やっぱり夫は何者かに殺されたのね)」彼女は必死に怒りを抑えながら話しているのを青葉はすぐに気づいていた、「Somehow I want to find out before being robbed by Russian authorities, (どうにかロシア当局に奪われる前に調べたい事がある)Can you leave my husband's cell phone with me?(ご主人の携帯を預からせてもらえないか?)」青葉は真剣な目付きで彼女を見つめそう訴えた、しかし、すぐに応えることが出来ず彼女は頭を悩ませた、すると突然教会のドアが開き、彼女の親族であろう人物が彼女の名前を呼んだ、青葉は慌てて後ろを振り向き困惑している間に彼女は席から立ち上がった、「Give me some time(少し時間をちょうだい)」 彼女はそう言い放つと青葉のもとから去っていった。




昼まで明るく太陽の光が差していた辺りは、段々と暗闇になっていき冷たい風が吹き出し始めたなか南条は、目的の部屋が見える別のビルの屋上へと登り、スコープを用いて時間を確認していた、「後5分で同じ時間になる、」腕時計の針は10時55分を差していた、「リセット開始だ、」 次の瞬間南条は腕に埋め込まれているチップを押し込んだ、すると又再び周りの景色が高速に巻き戻り、時空が過去へと流れ込んでいった、そしてあの日の時間へと到着した、南条はすぐに腕時計を見ると時間は11時を切っていた、慌てて地面に置いていたスコープを手に取り加藤の部屋へとレンズを調節した、「未だ爆発は起きていない、」南条は息を呑んでじっとスコープを握り締めている、「絶対に加藤は未だ死んでいない」南条の身には静寂な緊張が襲っている、するとビルの外から数人の武器を所持した男がビルの中へ入っていく姿を発見した、「!?」時刻が過ぎていくにうちに心臓の鼓動が速くなっていくのを南条は気づいてる、「チッ、落ち着け、落ち着け」すると次の瞬間、加藤の部屋から時々不審に光が放っている事に気がついた、そしてレンズで覗いていると、突如加藤の部屋のカーテンを開いて外を覗く男の姿が見えた、「こいつか!」 そしてよく見ると部屋の奥で武装した男達に連れていかれる、あの加藤の姿が見えた、南条はその動向をしっかりとカメラに残した、やがて部屋からは誰もいなくなり、最後に部屋を出る男が手榴弾を投げ込んだ、その数秒後に加藤の部屋は爆発が起きた、「ハー、ハー、加藤は未だ生きてる」ふと外を覗くと炎で燃え上がるビルの外で立つ自分の姿が見えた。

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