第7話ヤクザ矢島組の若頭と情婦

隆が30歳のころ、当時イソ弁していた事務所の方針で、暴力団矢島組の若頭の依頼を受任したことがあった。


若頭が事務所に来ているときは部下のヤクザが事務所の外で何人もたむろしていて、事務員の女の子がお使いなどに出かけるたびに、

「ご苦労さまです!」と組員たちが挨拶をする。

事務員の女の子から、

「根岸先生。お使いに行くとき、いちいち怖くてしょうがないです。なんとかなりませんか?」

と訴えられ、隆は若頭に相談したが、若頭は、

「先生。申し訳ないですが。わたしもいつヒットマンに狙われるか分からない身。警護を外す訳にはいかないんです。こらえてください」


若頭28歳、情婦が20歳。当時、東京湾横断道路の補助金で潤っていた木更津の売春宿にその情婦が売られるという話があった。支度金300万円。当時としては破格の大金だ。若頭はどうしてもお金が必要だという。


隆は猛反対したが、情婦の女の子の意思は固かった。隆は何度も念を押した。

「本気で惚れてるのか?」

女の子は、

「惚れています」と。

「惚れてるなら仕方ないけどよー」

隆は涙を流し、若頭や他の組員たちも泣いていた。

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