第15話在日中国人の王さん
隆がまだ若いころ、お客さんに在日中国人の王さんという人がいた。1990年より前、グローバル化が始まる前だからまだ日本語と中国語のバイリンガルは珍しかった。王さんが事務所に来ると中国語の勉強をしている事務員の渡辺さんは嬉々として中国語を教わりに行ったという。
王さんは戦前の生まれで、1930年代に中国の南京から少年留学生団のひとりとして来日した。
王さんは、
「南京少年留学生団に選ばれたのは成績優秀な子供ばかりよ。わたしもすごく勉強できたのよ」
「わたしは中国本土の出身だけど、当時の南京政府は蒋介石政権ね。だからわたしは親せきもみんな台湾にいる。わたしも心は台湾出身者よ」と。
王さんは戦後すぐ進駐軍の払い下げた車を日本人に売るディーラーをやって財産を築いた。
「戦後初めて衆議院が開会したときに佐藤栄作が国会に登庁するのに車がないとカッコつかないから、と言って泣きついて来たから車を売ってあげたのよ。だから佐藤栄作が乗っていた車はわたしが売ってあげた車よ」と誇らしげに言うのだ。
GHQ、進駐軍はさまざまなものを在日中国人や在日朝鮮人に優先的に払い下げた。それは意図的に在日外国人にチカラを持たせて日本が二度と戦争をできない国にするという狙いがあったらしい。
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