第3話隆の幼少期

隆は昭和17年、群馬県伊勢崎市の生まれである。戦争中の生まれであるから毎日が食べる物を確保するため、生きるための格闘であった。


幼少期には毎日、泥でできたようなさつまいもしか食卓に出ない食生活を送っていたらしい。そのトラウマで隆は成人してもさつまいもを食べられない身体になった。


利根川で取れる川魚やサワガニ、畑や田んぼのあぜ道で取れる野草など。毎日が食うや食わずの連続であるから、必死で食べ物を探した。


隆が幼少期に欲しかったものは「かすみ網」であった。子供の小遣いで買えるようなものではなかったが、当時の大人たちはかすみ網を使って野鳥を捕まえ食料にしていたそうだ。現在は法律で「かすみ網猟」は禁止されているが。


父親が外に女を作って家を出て行ってからは、極貧母子家庭としていよいよ生活に困り、隆は小学校高学年で牛乳配達のアルバイトをして家計を支えていた。


そんな極貧母子家庭の育ちではあったが、小中と学校の成績だけは異常に良かったらしい。当時まだ残存していたいわゆる「庄屋」の家に養子として売られる話も出ていたそうだ。


隆には久という兄がいた。久も学校の成績は良かったが、家計を支えるため中卒で働きに出ていた。兄弟仲はものすごく良かった。隆は中学校でダントツの一番の成績であったが、漠然とこのまま中卒で働きに出るのだろうと考えていた。実際母親もそれを望んでいたそうだ。


隆は中卒で社会に出て、世の中に復讐してやろうと少しひねた考えを持っていた。見かねた担任の先生が、

「君の才能はそんなことに使うためにある訳じゃない」と隆に諭し、わざわざ母親を訪ねて、

「この子は高校へ行かせないと大変なことになる」と説得し、前橋高校への進学が許されたのだ。

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