エピローグ 物語は続く
これから講評と採点だ。
わたしは先日の部活のように、森晶先生がわれわれの文章をバッサリ削るのではないかと、ヒヤヒヤしていた。
森先生が述べた。
「今回は難しい講評は控えます。細部を指摘しても意味がありません。観客の皆さんには、子どもたちが作品を、この場で即興で書きあげたことを知って頂きたいです。両校とも見事に完結できました。どうぞいま一度、拍手をおおくりください」
大会議室が割れんばかりの拍手につつまれる。わたしたちもあわてて立ち上がり、おじぎをした。サトちゃんも電子黒板ごしにぺこりと頭をさげた。
森先生がさらに言う。
「続いて採点結果です。文壇ではリレー小説を若手の育成に活用しています。日本リレー小説協会が発足し、わたしも協会の理事です。対戦の場合、本来は複数の審査員が審査します。今回は急に対戦が決まったため、審査員はわたしひとりでした。その点はご理解ください」
森先生はそこで両校の生徒を見回した。ソーサクくんのところで目をとめた気がしたけど、一瞬だったので気のせいかもしれない。
大会議室が静まりかえる。
エマは決定的瞬間を撮ろうとカメラを構えた。
電子黒板の画面ではサトちゃんが祈っている。
ソーサクくんはいつもと変わらぬ静かな表情だ。
森先生が口を開いた。
「勝ったのは、区立ひぐらし小学校リレー小説部です」
会場がわいた。
「やっほー」
「いやったー」
「サトちゃん、聞こえてる? 勝ったよー」
「聞こえてるよ。やったねー!」
わたしたちは飛びあがる。
写真を撮りおえたエマも、報道席からかけ出してきて一緒に喜んだ。
少し時間をおいて、森先生が言った。
「わずかな差でした。厳密な審査を積みあげたら、結果は違っていたかもしれません。文林小は完成度が高く、文章表現も優れていました。一方のひぐらし小は独創性と構成の妙が光り、明確なメッセージ性も感じました」
わたしは少し落ち着き、あたりを見渡す。
ユイが泣いていた。
「ユメ、違う。これは悔し涙じゃないから! なんかホッとした涙だから!」
「うん。ユイ、いろいろありがとう」
わたしはユイの背中をなでた。
志賀センパイがソーサクくんに言う。
「よかったね。転校先でいいメンバーにめぐりあえて」
「どうも」
ソーサクくんは相変わらず落ち着いている。
森先生がソーサクくんに近づいた。きょうの結果をほめるのかと思ったら、そうではなかった。
「ソーサク、たまには家に顔を出しなさい」
「父さんがおばあちゃんの家に来たらいい」
「それもそうだな」
なんだろう、このクールな親子は。
きっと、似たもの同士なのだろう。
森先生がわたしを見る。
「ジャージのお嬢さん。いや、夏目さん」
「あっ、その節は、失礼しました」
「きみたちのリレー小説。作品としての魅力がありました」
「は、はいっ。ありがとうございます」
「また一緒にやりましょう」
「ぜひよろしくお願いします!」
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
さて、翌週には、エマが書いたひぐらしウイークリーの「号外」が校内で配られた。
見出しは「リレー小説部、優勝!」だった。
わたしは苦笑いしてエマに言う。
「二校しか出てないのに、優勝はないんじゃない?」
「ウソは言ってない。負けてたら準優勝って書くつもりだったけどね」
職員室の前にはさらに大きな壁新聞タイプも張り出され、「シンデレラ」の全文が掲載されていた。
実はワークショップのもようは、地元新聞社の地域版にも掲載されたのだ。わたしたちリレー小説部のPRにおおいにつながった。もしかしたら新入部員が入ってくれるかもしれない。
そんなわけで、毎日いそがしい。わたしたちの物語は続く。
うれしいことに、サトちゃんが来週、病院から一時帰宅することになった。サトちゃんを招き、アラタの家で、打ち上げをかねたタコ焼きパーティーを企画中だ。
そのときはもちろん、みんなでリレー小説をやりたい。アラタもエマもそのつもりで盛り上がっている。
ソーサクくんがわたしに言った。
「ユメ。小説を書くこと、まだむずかしいと思っている?」
「簡単じゃないけどね。でもすごく楽しい。ソーサクくんのおかげだよ」
こうやって話しているいまも、わたしはリレー小説を書きたくて、うずうずしている。
【おわり】
(最後までお読みいただき、ありがとうございました)
クローバーノート リレー小説部へようこそ! やなか @yanaka221b
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