第2話 傷だらけの皇后

(うぅ……、頭、痛い……)

 ズキズキとした全身の痛みに、私の意識は呼び戻された。

(なんだ、これ……。体も、痛くて……。腕、動かしにくい……)

「う……」

 思わず呻き声が漏れる。すぐ近くで誰かが身じろぎする衣擦れの音が聞こえた。

(あ、そっか。私、階段から落ちて……)

 記憶がよみがえるに合わせ、ゆっくりと目を開く。

(……は?)

 やたらとまばゆい。朱と金で彩られた光景が目に飛び込んできた。

 自分の部屋でも、病室でもない。

(え? 中華のお店? なんで?)

 反射的に身を起こす。その瞬間、激痛が全身を貫いた。

「ぐぅっ!」

翠蘭スイラン様!」

 年を重ねた女性の声と共に、体は支えられる。

「皆! 皇后陛下がお目覚めになられた!」

 落ち着きのあるよく通る声。それに呼び寄せられるように、パタパタといくつもの足音が近づいてくる。

「翠蘭様が、お目覚めに!?」

「ああ、よかった! 翠蘭様!」

(すいらん?)

 集まってきた少女たちはそれぞれ涙を流し「良かった良かった」を繰り返している。彼女らの服装や髪型は、中国の歴史ドラマで見たようなものだった。

 ずきずきと痛む頭で、私は考える。

(さっきなんて言われた? 皇后?)

「あの、鏡を……」

「えぇ、翠蘭様。誰か、鏡をお持ちして!」

「はい! こちらをどうぞ」

 博物館で見たような仰々しい装飾の手鏡を渡される。中をのぞき込み、私は息を飲んだ

(これは……!)

 そこに映っていたのは、オタクでアラフォーの高田たかだ朱音あかねではなかった。

 天女のように美しい、なよやかな若い女。

 あちこちに包帯を巻かれ、痛々しい姿ではあるけれど。

 そしてその服装はやはり、周りの少女たちと同じ古めかしい中華風のものであった。

「ささ、皇后様。まだ無理をしてはなりません」

 年かさの女性に促され、私はゆっくりと横たわる。

(皇后、だよね? 間違いなく、皇后って呼ばれてるよね、私。なにこれ? どういう状況? あちこち包帯ぐるぐるだし。いったい何があったの!?)

 そうこうしている間にも、湯が運ばれ、香が焚かれ、医師らしき人が呼ばれる。

「奇跡でございますな」

 私の脈を取り、老人がにこにこと笑う。

「一時は息が止まっておられましたのに」

(は?)

 ……今、なんて?

 息、止まってた?

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