第9話 発覚
数日後、
後宮の皆が読むもののため、作中の恋の相手の男の名は、
香麗は空白に自分の名を書き込むと、読み始める。
「ふふ……」
名前こそ違えど、物語に描かれている青年の振る舞いは、皇帝・勝峰そのものだ。
だが彼の口から出てくるのは、恋物語だからこその甘く心を疼かせる台詞。
香麗は夢中になって読みふけっていた。
勝峰が部屋を訪れたことに、全く気付かずに。
「何をしておる」
突如すぐ側から聞こえて来た勝峰の低い声に、香麗は飛び上がる。
「きゃあ!」
「この俺が幾度も名を呼んだと言うのに、聞こえなかったのか」
「も、申し訳ございません、陛下」
慌てて隠そうとするその本を、勝峰はさっと取り上げた。
内容に目を走らせ、彼は眉を吊り上げる。
「なんだこれは」
最愛の寵姫香麗と、傲岸不遜な男峰風との、甘く淫靡な恋物語が描かれていた。
「この男は誰だ。なぜこの艶本の中で、お前はこの男と淫らな真似をしている」
勝峰が香麗の肩を掴む。嫉妬に狂ったその指先に、香麗は顔を歪めた。
「くぅっ」
「答えよ! お前はこの男と不義の関係に及んだのか!!」
雷鳴のごときその怒声に、香麗は震えあがる。
「ち、違うのです。それは、陛下を模した架空の人物でございます!」
「俺を?」
「はい。私が頼んで、陛下と私の恋物語を作ってもらったのでございます!」
「……これが、俺だと」
勝峰はパラパラと内容に目を通す。
「香麗、お前は俺に、こんな台詞を言われたいのか?」
「は、はい」
いくらか声音の和らいだ勝峰に、香麗はほっと息をつき、艶やかに微笑みを返した。
勝峰はにやりと笑うとその一説を香麗の耳元で囁く。
香麗が量の手で口元を覆い、小さな悲鳴を上げ、目元を薄紅に染めると切なげに身を震わせた。
「はは、これはなかなか面白い。だが……」
その目がギラリと光る。
「お前の心をこのように乱すものを書いた男を、許すわけにはいかんな。それは皇帝の寵姫に懸想したに等しい行為だ」
「あっ、それを書いたのは男ではございませぬ」
「なんだと?」
香麗はハッとなったがもう遅い。
「これほどまでに艶めかしい小説を書く女が、この宮にいるのか」
「そ、それは……」
「実に興味深い。一度会ってみたい」
「……」
「これを書いたのは誰だ。名を申せ」
「……。皇后様でございます」
「何!?」
勝峰はもう一度、書に目を通す。
そして眉根をしかめた。
「これを、
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