間違いなくVtuber小説で今一番熱い作品

この物語の主人公はVTuberに興味はない。

物語はプロゲーマーである主人公がとあるVTuber事務所にあるゲームの大会へと向けた指南をするところから始まる。
主人公は世界大会で優勝するほどの実力で、現実世界で言うところの大谷翔平のようなゲームプレイヤーだ。
そんな彼が素人やアマチュアレベルのゲーマーにゲームを教えていくのである。
そんな中でやがてゲームにしか興味がなかった主人公が指南の中で配信者たちに興味を向けていくという筋書きなのだ。

ここまで読んでくれた人はお気づきだろうが、この物語はよくある「配信に興味のなかった素人がやってみたらバズっちゃいました」という話ではない。
前述の通り、主人公は物語の世界における大谷翔平だ。大谷がYouTubeを始めたら誰しも度肝を抜かれて見にいくだろう。私だって見る。
だからこの物語の面白さは「無名の主人公が有名になっていく」ところにはない。

この物語の面白さのキモはキャラクターにある。

人間は何かに共感したとき「面白い」と思う生き物だ、
また、人間は自分に近いものに親近感を覚え愛着を覚え共感する生き物でもある。
主人公は正直なところキワモノ中のキワモノ。共感できるのはそれこそストイックな練習を積み重ねて「選手」として活躍する人ばかりのはずだ。
ならば、そんな彼こそが主人公である作品において私たち読者が共感する相手は誰になるのか。
それはVTuberとして登場する人物たちだ。

彼らは普通だ。
配信をしているだけで、それがちょっとうまく行っているだけで、私たちの延長線にあると感じられる普通の人なのだ。
そんな普通の人たちが主人公との関わりの中で人となりを、そして、そこに至る経緯を開示していく。
そうして知らされるVTuberたちのあまりに現実感あるそのキャラクター性に私たちは共感してしまうのだ。

そして、そのキャラクター性がまたリアリティーがあるものなのである。
配信者や配信事務所という括りであればいくらか繋がりがあるが、どのキャラクターも小説的な誇張はあるものの現実にいておかしくない姿をしている。
VTuberを志すきっかけや仲間内でのやり取りなんかはただファンとして見ているだけでは気づかないことにも細やかに触れていた。
きっと作者はとても観察力があり取材を惜しまない人なのだろう。こういった描写こそがこの作品がもつ最大の魅力だと思う。

この作品は今までになかったリアルなVTuberの形をVTuberたちと共に配信する人間の視点から見る物語だ。
その中で普通の人の延長にあるVTuberという存在を細やかな描写が魅力的である。
今までにないタイプのVTuberものの作品をお探しの方、ぜひ読んでみてはいかがだろうか。

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