第9話 1か月後
1ヶ月後。
今日も同じ時間で、同じ場所で倒立をして、すごく目立っていたのですぐに見つかった。
「萌花さんのパンツは俺が守ります」
「本当、いろいろ起こりすぎて驚かなくなってきたわ、そんなこと言われてもあー、そうなのってぐらいにしか思わないわ」
「はい、いろいろありましたね」
今日で約束の逆立ち最終日である。
「youtuber来たり、ツイッターでなぜか炎上したり、逆さ美少女旅行記が売れまくったり、逆さ写真集がブームになったり、ニコニコ動画で2次元美少女をあえて逆にする動画が人気ランキングで上がったり、世の中おかしいわ」
まぁ確かにそんなことも合った気がする。
「駅の周りも繁盛したり、謎のゆるキャラ逆さキャットが人気になったり、ステーションアイドルのおかげですね。逆さフードも逆さアニマルも大ブーム。逆さたこ焼きと逆さウサギなんかはコンビニにも並んでますよね、駅員さんはもちろん、市長さんも喜んでましたよ、駅名を逆さ駅にしようかとか言ってましたね、逆さブームを地域の発展へといかそうとか、大盛り上がりですね」
「だいたい、あんたのせいだわ」
そういえば、だいたい自分が絡んでいた気がする。俺には初日から覚悟を決めて、やるべきことをやっただけである。
「まぁ、いろいろあって案外面白かったわ」
「それはよかったです」
萌花さんはほんわかとした、ずいぶんかわいらしい表情を見せる。
「もう終わりで良いかな、パパに会いに行って、あたしの言うことを聞いてもらうんだから」
すとん。
逆立ちからもとの体勢に戻る。
萌花さんは相変わらずの美少女っぷりを見せつけ、胸を張って誇らしげにしている。
その様子を見て、俺も一安心する。
「さて、最後の仕上げに入りますか」
「へ?」
「すべてはこの日のために頑張りました」
この日までだいたいの事柄が順調に進んだことに一安心したのだ。
「SPさんお願いします」
『かしこまりました』
「なに、なに、なに!」
萌花さんは突然、かつがれて連れて行かれる。
そして、数分後、もともとの逆立ちスペースへと戻ってくる。
ウェディングドレスを着た萌花登場!
「本当あなたは何なの!」
「実はあなたの婚約者候補のモノです」
「あなたが! こんなの聞いてないわよ、今回のお見合い断るつもりだったのよ! そのための1ヶ月よ、なんてことしてくれるの!」
「似合うよ」
すっごく真っ赤な顔をしている。
「あたし、すごく恥ずかしい」
「やっとか」
「へ?」
手を頬に当てている萌香さん。
萌花さんのお父様がいつのまにか横にやってきていた。
「お父様の本当の目的をご存じですか?」
「ずっと聞いてて、あんたは教えてくれなかったじゃない!」
萌花さんのお父様がこちらを見て、うなずき、自分が答えると言った様子だったので自分は何も言わないことにした。
「恥ずかしいという気持ちをしっかり知ってほしかったんだよ!」
「やりすぎよ!」
お父様が俺のことを温かい目で見つめてくださるので勇気が出た。
「私はずっと自分を貫くあなたが大好きです」
「あんたが婚約者って認めないわ」
「そうですか、私ならあなたを幸せにできます、どんなわがままなお願いもかなえられます」
「………」
むっとしたまま、こちらの目をじっと見つめてくる、萌花さん。
「あんた、聞いてないの? あたし、今まで断ってきてるのよ、全員。お見合い相手」
ウェディングドレスのすそをぎゅっとにぎりしめて、恥ずかしげに口をとがらせながらぽつりと言った。
知っている、お父様から全て伺っている。
「萌花さんのあまりの意地っぱりように耐えられず、お見合い相手が逃げ出して、そんな女性はこっちがお断りだとお聞きしました」
「やめて! 言わないで!」
顔を真っ赤にして怒る。
「俺は清藤宮萌花さんの全てが好きです、俺とつきあってください」
「いや」
即答だった。
しかし、申し訳なそう顔をして、ごにょごにょしていたのでそっと耳を傾ける。
「で、で、でも、少しぐらいならお礼としてそばにいさせてあげる」
「それってつきあってくれるってことですか!」
「絶対結婚なんてあんたとはしないわよ、ちょっとだけ一緒にいるだけよ!」
『ふぅー』
もはやこの駅はギャラリーも多いおかげで祭りのようになっているが、かなり面白いモノが見れていることで大はしゃぎである。
「もういやだぁー」
「俺のこと、好きってことでいいんですよね?」
基本何にも動じないつもりだが、うれしさで舞い上がって動揺してしまった。
「そんなの、勝手に想像しなさい!」
総勢から拍手が起こる。
『おー、いいぞ』
ギャラリーから大きな歓声が沸き、この1ヶ月で一番の盛り上がりを見せた。
「もうやだぁー!」
手で顔を覆ってから、顔を真っ赤にして、ウェディングドレスを持って走り去っていた。
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