桃太郎無双

君のためなら生きられる。

昔々あるところに

0-1

 昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。

 お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

 お婆さんが川で洗濯をしていると、川から大きな桃が、ドンブラコ、ドンブラコ、と流れてきました。


 お婆さんはお爺さんへのお土産に、その桃を持ち帰りました。

 お爺さんは大層喜び、その桃を食べようと割りました。

 すると、中から赤ん坊が出てきました。

 子供のいなかったお爺さんとお婆さんは、桃から生まれたその子に"桃太郎"と名づけました。


 桃太郎はスクスクと育ち、あっという間に健康な16歳ほどの青年になりました。力も強く、家事や狩りを手伝ってくれる桃太郎は、村のみんなにも好かれ、可愛がられて育ちました。 


 そしてある日桃太郎は言いました。

「鬼ヶ島に行って、鬼を倒してくるよ」

 村の皆が、鬼に子供や財産を奪われた話を聞き、桃太郎は決心したのです。

 お爺さんとお婆さんは、いくら体の強い桃太郎とはいえ、一人で向かうことに反対しました。

 それでも桃太郎は聞きません。

 根負けしたお婆さんは、桃太郎の大好物だったキビ団子を作り、持たせました。

 お爺さんは若い時に使っていた切れ味の良い日本刀を持たせました。


「行ってきます」


 村のみんなで装備を譲り、桃太郎は立派な侍として鬼ヶ島に向かいました。

 村人達は皆、桃太郎が見えなくなっても手を振り続けました。 


 桃太郎は道中、犬、猿、雉に出会います。何故か桃太郎には動物の言葉がわかりました。腰に巻き付けていた袋のキビ団子を一つ渡すことを条件に、桃太郎は三匹を仲間にしました。 


「桃太郎さま、本当にいくんですかい?」


 猿はキビ団子を頬張りながら言いました。


「ああ。村のみんなが困っている。恩を返したいんだ」


「それなら私たちも、桃太郎さまにキビ団子の恩を返さないとね」


 雉もキビ団子を頬張りながら言いました。


「オイラも頑張るっす」


 犬も嬉しそうに桃太郎の周りをクルクルと駆け回り言いました。キビ団子はとっくに食べ終わっているようです。

 3匹の姿を見て、桃太郎は信頼される喜びを感じました。 


 船を漕ぎ、鬼ヶ島に到着すると、1体の子鬼が待ち構えていました。 

 その鬼の姿を見て3匹は恐れましたが、桃太郎は臆することなく、えい、と飛びかかり、あっという間に倒してしまいました。


 すると、戦闘の音を聞いてか、5体の子鬼が現れました。3匹は、今度こそ役に立つんだ、と張り切りました。

 桃太郎と協力し、5体の鬼を退けました。


「すげえや、なんだか力がみなぎってきた」


「桃太郎さまと契約したおかげかもしれませんね」


「鬼だって噛みちぎれそうっす!」


「契約?」


「キビ団子をくれる代わりに、お供になるという契約です」


「ああ、そういうことか。無理しないでいいからね。危なくなったら逃げておくれ」


 そう優しく微笑む桃太郎を見て、三匹は忠誠を心に誓いました。


 しかし、中鬼が背後に現れ、棍棒を振り下ろしました。犬に直撃し、吹き飛ばされてしまいます。 

 桃太郎はすぐに中鬼に斬りかかりました。雉は目を突き、猿は足をすくいました。

 なんとか中鬼を倒し、犬の元にかけよります。犬は幸い、まだ息はありました。


「ごめんなさい、僕のせいで」


「へへ、桃太郎さま、やめて下さいっす。ヘマしたオレが悪いっす。置いていって下さいっす」


「ダメだ。一度村に皆で帰ろう。そして怪我を治してからまたみんなで__」


「危ない!!」


 猿が桃太郎を突き飛ばしました。桃太郎が振り向くと、大鬼が棍棒を振り下ろし、猿に直撃した姿が見えました。


「猿!!」


 猿は地面を回転しながら受け身を取り、なんとか立ち上がりました。しかし、腕の骨は折れているようで、ぶらんと垂れ下がっていました。


「雉! 二人を連れて逃げてくれ」


 桃太郎は叫び抜刀しました。しかし、逃げるどころか、犬は震える体で立ち上がり、3匹は大鬼の元に攻撃をしかけたのです。


「桃太郎さま、私たちが時間を稼ぎます、お逃げ下さい!」


 大鬼はニヤリと笑うと、2本のツノを輝かせました。すると筋肉が膨れ上がり、さらに大きな姿に変わったのです。今度は一振りで、三匹を倒してしまいました。


「うわああああ!!」


 叫びながら桃太郎は大鬼に斬りかかります。三匹は立ち上がることはありません。桃太郎は悲しみにくれながら、大鬼に決死の覚悟で挑み、右腕を骨折してしまいましたが、勝利しました。


「はあ……はあ……」


 息を荒げて三匹の元へいくと、今度は返事も息もありませんでした。 


「僕のせいだ、僕が鬼ヶ島に誘ったから……ううっ」


「お前がやったのか?」


 桃太郎は全身の鳥肌を立ち上がらせ、殺気と声がする方に振り返りました。すると、そこには涙を流し、大鬼に膝をつくボス鬼の姿がありました。

 桃太郎はその姿を許すことが出来ませんでした。村のみんなを苦しめた鬼のくせに。今まで散々侵略してきた癖に。何を被害者のように涙を流しているんだと。 

 桃太郎は絶叫し、身の丈が3mはあるであろうボス鬼に斬りかかりました。


 しかし、ボス鬼の正拳突きをくらい、吹き飛んでしまいます。アバラの骨は全て折れ、立ち上がることが出来ません。 


「なんなんだ、その丈夫さは。人間なら粉微塵になるはずだ」


 ボス鬼は驚きながら、ゆらりゆらりと近づいてきます。どこからか召喚した棍棒を手に持ち、トドメをさそうとしています。


「僕がもっと強ければ……犬、雉、猿、お婆さん、お爺さん、力を貸して」


 折れた刀を握りしめ、キビ団子を一つ口に放りました。すると、桃太郎の体が輝き、大きくなりました。そして怪我は全回復し、立ち上がりました。 


「お前まさか……いや、そうか。そうだったのか」


 持っていた棍棒をボス鬼は落としました。

 無抵抗になったボス鬼を、桃太郎はめったうちにしました。ボス鬼は肉が裂かれても、骨が砕けても抵抗しません。 

 ついに立ち上がることができなくなったボス鬼を見て、桃太郎は言いました。


「何故だ! 何故抵抗しない!!」


 あと一振りで首を落とせる。そのすんでのところで、桃太郎に無抵抗で膝をつくボス鬼を一方的に攻撃する罪悪感が芽生えました。


「どこに、最後の家族を手にかける親がいるというのだ。息子よ」


「……何を__」


 桃太郎はボス鬼に指をさされた自分のおでこを触りました。すると、あるはずのない大きな一本角が生えていることに気付きました。それはボス鬼についている一本角と同じ大きさでした。


「お前は人里を全滅させるために送り込んだ、私の息子だ」


「そんな……やめろ、やめてくれ! 僕の親は、育ててくれたお婆さんとお爺さんだけだ!」


「そうか。立派に育てて貰えたんだな」


 まるで暴力性を感じなくなったボス鬼は、桃太郎の頭を撫でました。

 その目をみて、切り捨てることが出来ず桃太郎は納刀しつつ、ボス鬼の手を払いのけました。


「何故村人を傷つける! 何故奪うんだ!!」


「もともとこの土地は人族が現れる前に鬼族が支配していた。それを譲ったのだ。しかし人族の寿命は短い。その恩を忘れ、我々を攻撃するようになった。鬼族は自ら鬼ヶ島に住むようになり、必要なものを取り返していただけだ。人族から攻撃されなければ、我々から攻撃することはない」


「嘘だ! ならなぜ犬を襲った!」


「それは、お前達が侵略者だからだろう。武器を持ち唯一の住処である鬼ヶ島に入り込んだ。当然のことだ」


「……」


 桃太郎は何も言い返すことが出来ませんでした。


「育ての親への感謝として、鬼ヶ島の金品を全て譲ろう。お前の兄弟たちを殺した罪も、問わない。どうか幸せに過ごしてくれ。嘘だと思うなら、今ここで私の首をはねるがいい」


 桃太郎の心はグジャグジャになってしまいました。気付くと桃太郎は涙を流していました。


「そうだ。一つだけ願いがある。私はどうなっても構わない。母鬼の墓に手を合わせてはくれないか」


 その言葉がキッカケに、桃太郎は全てを真実だと理解しました。膝をつき、ボス鬼を抱きしめました。


「ごめんなさい、父さん」


「いいんだ。さあ、帰りなさい。もうここへは来てはいけないよ。お前は人として生きていくんだ」


 桃太郎は別れを告げ、村人に必要なだけの財産を受け取り、母鬼の墓に手を合わせ、三匹の亡骸を持ち船を漕ぎました。


 島に向かうと、海岸沿いに村人が数人たって待っていてくれました。

 桃太郎は嬉しくなり、おーいと手を振ると、慌てて村人は村へ戻っていきます。 


「お婆さんとお爺さんを呼んだんだろう。早く会いたいな」


 桃太郎は急いで漕ぎ、上陸します。

 すると、桃太郎の足元に一本の弓矢が刺さりました。 

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