1-3

 王城の中にはメイド服をきた可愛い鬼人達が、掃除をしたり料理を運んだりしていた。護衛の鬼人もいたが、赤鬼人が挨拶をすると、一礼して扉を開けていた。 


「立派なお城ですね」


「ね、父さんに言って僕たちも住まわせて貰おうか。家ないし」


「勝手に話を進めるな、侵入者」


「はは、ごめんごめん。父さんに前世の記憶があるか、わからないもんね」


「本気で言ってるのか? ……ついたぞ。ここで待ってろ」


「はーい」


「はーい」


 僕とキジーナは元気に返事をした。一際豪華な扉の向こう側に赤鬼人が入っていく。会話だけが漏れて聞こえてきた。


「ルビリン、どうした赤い顔して」


「それはいつもでございますオニール陛下。謁見希望の人間が現れました」


「おう、つまみだせ」


「それが、勝手に侵入して鬼檻に入れられたところ、自力で出てきたようでして。三原色の鬼人で対応しましたが、力の差が歴然だったので、降参しました。申し訳ありません」


「なるほどな。いい判断だ、よくぞ無傷で戻ってくれた」


「はっ。ありがたきお言葉」


「で、オレが倒せばいいってことだよな?」


「はい。お連れてしても宜しいでしょうか? 門の前にいます」


「門の前に? なんで行儀良く待ってるんだ?」


「何故か従順でして。王に会わせてくれ、その……」


「よい、言え」


「前世のお父さんかもしれないから、と」


「はあ? わけがわからんな……まあいい、通せ」


「はっ! お妃様はお隠れになりますか?」


「オニールのそばが1番安全よ。私もここにいる」


「はは、違いねえ!」


「仰る通りでございます。過ぎた発言をお許しください」


「構わん。呼べ」


「はっ」


 漏れて聞こえる会話を盗み聞きしていると、ルビリンと言われていた赤鬼人が扉を開いてくれた。


「ありがとうルビリン」


「馴れ馴れしくするな。お前はここで終わりだ」


「きっと覚えてるよ」


 キジーナは少し緊張で震えているようだ。


「大丈夫だから、魔法もかけないでいてね」


「畏まりました」


 微笑むと、微笑み返してくれた。僕はキジーナの前に立つように歩き出した。赤い絨毯の前に玉座があり、そこに立派な一本角のはえた鬼人が、頬杖をついて座っていた。


 その隣に、2本角で髪をセミロングに伸ばし、ミニスカートを履いた猫目の鬼人が退屈そうに寄り添っている。どうでもよさそうに、視線はこちらに向いていなかった。


 そして僕にはハッキリとわかった。姿は鬼人であり、おそらく前世出会った時よりも若い。20代前半の肉体だろう。しかし、間違いなく父さんだ。そしておそらくその隣の女性は……母さんだ。


「父さん! 母さん!」


 僕は駆け寄った。すると、オニール王と呼ばれていた父さんは玉座を飛び出し、僕を抱きしめ……ることはなく拳を振るってきた。僕はそれを立ち止まり、ただ見つめた。父さんの拳は僕の顔の前でピタリと止まる。

 父さんは自分の手を見て驚いている。父さんのニヤニヤと余裕のあった表情が、少し焦りに変わった。


「まだ我々に子はいない。それにお前、人間じゃないか」


「前世の父さんなんだ。ごめん、僕が僕のまま転生しちゃったから、産まれてこないのかも」


「ふざけるな。【鬼神の御剣】」


 父さんが詠唱すると、190cmほどの父さんと同じくらい大きい剣が現れた。

 大ぶりで僕を切り裂こうとしたが、やはり当たる寸前に手が止まるようだ。


「どういう魔法だ? お前を攻撃できん」


「魔法は使ってない。記憶がなくても、魂が覚えてるんだよ」


「適当なことを言うなよ」


 父さんは下がって距離を取ると、腕を前に出した。手のひらを中心に黒いエネルギーのようなものが集まり始める。


「これならどうだ?」 


 父さんはまたニヤニヤと笑った。周りにいた従者の鬼たちが慌てて避難をはじめた。僕は念の為にキジーナの前に移動した。


「待って、オニール!!」


 母さんが、僕の方を見て立ち上がり叫んだ。


「城はすぐ直せる範囲におさえ……どうしたママル。泣いているのか?」

 

 父さんは母さんを見ると、エネルギーを霧散させた。

 母さんはゆっくりとこちらに歩いてくる。目を見開き、声も上げずにツラツラと涙を流している。 


「どういうこと? 私に息子なんていない、ましてや純粋な人間なんて鬼人の私には産めないはずなのに……」


「母さん、会いたかったよ。前世ではもう死んじゃってたから、初めましてだね」


 僕は両手を開いた。すると母さんは駆け寄り、僕を抱きしめた。僕は少ししゃがんで、目線を揃えた。頬と頬が当たる。


「なんなの、この気持ちは……」


 母さんの温かい涙が僕の頬にくっついて気持ちがいい。僕の後ろ髪を愛おしそうに撫でてくれた。今世の母さんは若くて美人だ。服装も露出されているので、大きな胸に包まれて、少し恥ずかしい。

 母さんは体を離して、僕の顔をマジマジと見て微笑むと、父さんの方を向いた。


「オニール、この子を傷つけないで。お願い」


「お前、まさか浮気__」


「バカ言わないで、そんなわけないでしょ。私もわからないけど、この子は傷つけたくない」


 父さんは召喚していた剣を霧散させて、頭を抱えてこちらに近づいてきた。母さんは、父さんが僕に攻撃する意思がないことがわかると、父さんの隣に移動した。


「言われなくても、攻撃できないんだ。何故かな。お前、名前は?」


「桃太郎」


「桃太郎? 桃太郎と言ったのか?」


 僕が名前を告げると、父さんと母さんは驚いていた。


「うん。キジーナ、おいで」


 キジーナは僕が呼ぶと、慌てて駆け寄り、父さんと母さんに膝をついた。


「オニール陛下、ママル妃、お初にお目にかかります。キジーナと申します」


「この子は雉のキジーナ。前世の記憶があるんだ。父さんと母さんもいつか思い出せるといいね」


 父さんと母さんは顔を見合って頷いた。どうしたんだろう? 


「楽にしてくれキジーナ。オレのことはオニールでいい。ママルもだ」


「しかし……」


「お願い、そう呼んで頂戴」


 母さんが言うと、キジーナは少し戸惑ったが、すぐに受け入れた。


「わかりました、ママル、オニール」


父さんと母さんは優しく微笑んだ。


「桃太郎、あと2匹のお供はどうした?」


「え! どうしてそのことを知ってるの? まだ犬と猿には会えてないんだ。生まれ変わってたら良いんだけど」


 父さんは真剣な眼差しで頷いた。僕が戸惑っていると、母さんは父さんの腕をギュッと抱きしめ、愛おしそうに僕を見つめて微笑んでいる。


「……確定だな。少し歩こう。攻撃してすまなかった。桃太郎の話を信じよう」


「?? うん!」


 僕たちは王の城を裏から抜け、裏庭に進んだ。するとそこには__

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