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 丁寧に整備された桃太郎と刻印された石と鬼の彫像、犬、猿、雉の石の置物があった。

 その隣には大きな鬼の彫像と、鬼ヶ島にあったはずの母さんの墓石。そして、二人の夫婦の名前が彫ってある石があった。それは、お爺さんとお婆さんの名前だった。


「これって……」


「ああ。昔々あるところに__」


 父さんが語り出した。それは、所々違いはあったが、僕の物語だった。きっとお爺さんとボス鬼が情報を埋めあって作ってくれたんだ。


「__と、まあこんなところだ。鬼人の王族にだけに伝承されている。ただのおとぎ話だと思っていたんだがな。桃太郎と、人の夫婦と鬼の夫婦と我々の直系の先祖達、そして三匹の動物が同じ石棺の中で骨となり眠っている」


 つまりこれは、僕と僕の家族が眠るお墓だ。異世界に転生したわけではなく、ここは未来だったようだ。静かに僕の頬に涙が伝った。僕が死んだ後に、皆仲良くなれたんだ。それだけが気がかりだった。よかった、本当によかった。


「ううっ」


 キジーナが置物と墓石を見ると、泣き出してしまった。しかし、その表情は喜びに満ちていた。


「大丈夫?」


「はい、あまりにも幸せで。桃太郎さまと同じお墓で眠れていたなんて」


「てことは、先祖の墓ってだけじゃなくて、このお墓は俺たち夫婦の前世の墓でもあるってことか。先祖は大切にするもんだなあ」


 がははっ、と父さんが笑い、僕の頭をクシャクシャと撫でた。


「桃太郎、私たちに何かできることはあるかしら?」 


 母さんは、僕が気づかないうちに目に伝っていた涙を指で拭ってくれながら言った。


「隣の王都で召喚されて、逃げ出したから家がないんだ。キジーナとここに住んでもいい?」


「勿論! そうしてくれないかしらと思ってたところよ。ね、オニール」


「ああ。喜んで迎え入れよう」


「私は……宜しいのでしょうか。私はただ桃太郎さまと共に、むしろ鬼退治に向かってしまった部外者でして」


「キジーナ、畏まらないでくれと言っただろう。同じ墓に眠るオレ達は家族だ。争いがあったから今の平和な、動物と鬼人が調和して暮らす我が国がある。鬼は動物と話せたらしい。鬼人である我々には、感情を理解する程度しか出来ないがな」


「鬼ヶ国では、魚と植物しか食べないの。陸の動物は食べることを禁止されてるわ。禁止されなくても感情が理解できるから、食べようとする鬼人はいないと思うけど」


「へー。てことは、父さんと村の人が再婚して、愛し合ったら桃が出来て鬼人になったんだね」


「……」


 あれ? みんなが僕をみつめてポカンとしている。


「え、みんな桃から産まれたんじゃないの? 僕、桃から産まれたって聞いたんだけど。もしかして僕だけ鬼じゃなくて、本当は鬼の夫婦に拾われた桃の妖精だったりする?!」


「いやいやいや、違うんだ! お前は間違いなく鬼だ! 今は人間として転生しているようだが、桃の妖精なんで聞いたことがないし、居たとしても弱い」


「へー、じゃあなんでだろ。みんなは桃から産まれたんじゃないの?」


「あー、その……キジーナ、今度教えてやれ」


「え、私がですか?! むしろオニールかママルが親として性教育を」


「せいきょういく?」


「キジーナ、頼んだわよ。ヤッちゃっていいからね、良かったじゃない前世の母公認よ」


「ヤッちゃ__ママママママル、なんてことを! 私はお供であって、桃太郎さまとそんなことを」


「なに、僕としたくないことがあるの?」


「と、とんでもありません! 桃太郎さまとしたくないことはありません、むしろしたい……なんでもないですー!!」


 キジーナは顔を耳まで真っ赤にして一人で走って城に戻ってしまった。どうしたんだろう。 


⚪︎


それから、僕たちはお風呂に入り、服を着替えた。女性服の余りが母さんの物しかないらしく、露出が激しいため、キジーナはメイド服に着替えた。

ボクは父さんの寝巻きだという、黒地の服を着た。

4人で食事をして、前世の父さんの話や、今世での父さんと母さんの生活の話を聞いた。


 部屋を一つ与えてもらった。大きなベッドがあり、僕ははじめての経験に、思わずため息を漏らした。ふかふかだぁ。

 そういえばキジーナが母さんに呼ばれて、どこかに連れて行かれていたな。はやくキジーナも部屋に来て、このふかふか具合を共有したい。 


 うたた寝をしていると、扉が開く音がした。僕はキジーナが来たと思い、起き上がった。


「キジーナ、早くおいで! すごいんだ、このふと……どうしたの、その格好」

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