1-5

 キジーナはメイド服から、なんだか透け透けの服に着替えていた。ちょっと透け過ぎている。下を向いてもじもじとキジーナは言った。


「い、いかがでしょうか桃太郎さま。ママルがどうしてもこれを着ていけと」


「薄い服だね。寒くない?」


「……寒さは、大丈夫です」


 キジーナが頬を膨らませた。なんだ、期待してた答えと違ったのだろうか。


「お部屋も一緒なんですね」


「ね。ごめんね、別の部屋がよかった? 父さんに頼んでみようか?」


「いえ!! このままで結構です!! では私はお供なのでこのフカフカの椅子、ソファーとやらで眠りますので」


 キジーナはツカツカと移動し、ソファーで横になった。 


「布団で寝ないの? ベッドっていうらしいよ、もっとフカフカだよ」


「ご一緒しても宜しいので?」


「なんでダメなの?」


「お供ですから」


「お供ならいいんじゃない?」


「な、なるほど。ではお供として! お隣に失礼します」


「うん。ほら、おいで」


 掛け布団を僕が開いて招き入れると、キジーナはやけにゆっくりと布団の中に入った。

 天井を見つめ、硬直している。肩を見ると、小さく震えていた。


「あれ、震えてるよ。やっぱり寒いんじゃない? もっとこっちおいで」


「あっ」


 僕はキジーナを引っ張って抱き寄せた。僕の体に触れる肩が冷たい。やっぱり寒かったんだな。明日母さんに言ってメイド服に戻してもらおう。

 カチカチに凍りついて動かないキジーナを抱きしめて温めた。これで大丈夫だろう。


「おやすみキジーナ」


「オヤスミナサイ、モモタロウサマ」


 かわいそうに、寒すぎて言葉まで固くなってる。僕はキジーナを撫でながら眠りについた。


 翌朝。キジーナの震えは止まり、僕の体に包まれるように眠っていた。小さく寝息を立てている。奴隷召喚士の布団とは比べ物にならない上等なものだ。僕も村のゴザで寝ていたので、まるで天国のように感じた。 

 母さんに起こされて、朝食に向かった。食卓に向かう途中にキジーナの服を頼むと、なんだか苦いものを食べているような顔をしながら了承してくれた。 

 キジーナの肩をポンと母さんが叩くと、その手をキジーナが重ねた。 

 どういう意味だろう? 


 朝食は貝の潮汁、魚の煮付け、クルミの甘辛炒めとお米だ。


「おいしい!」


「良かったわ」


「母さんが作ったの?」


「いえ、メイドが……昼ご飯は私が作ろうかしら」


「ママルの手料理なんて久しぶりだな。桃太郎のおかげだ」


「メイドが作った方が美味しいのよ」


「そんなことないぞ、ママルの飯は豪快で俺好みだ」


「僕も母さんの豪快なご飯楽しみ!」


「豪快って褒め言葉なの?」


「私も何かお手伝いすることがあれば」


「あら、じゃあキジーナと一緒に作ろうかしら」


「はい!」


「でかしたぞ、桃太郎」


「へへ」


「そうだ、これからどうするんだ? ずっとここにいてもいいぞ」


「少し休んだら、犬と猿、お爺さんとお婆さんを探しに行こうと思ってる! でもここに帰ってくるよ。もしみんなに行き場がなければ、ここに連れてきてもいい?」


「ああ、勿論だ」


「ありがとう父さん」


 父さんはニカッと気持ちのいい笑顔を向けてくれた。食事を終えると、父さんに誘われて組み手をすることになった。城の中に広い空間があり、観覧できる座席も複数あった。母さんとキジーナ、そしてルビリンが座った。


「ルビリーン!」


 僕は手を振って名前を呼んだ。父さんの元まで連れてきてくれた赤鬼人だ。


「もっと馴れ馴れしくしてくださーい!」


 ルビリンが叫んで手を振りかえしてくれた。すごい態度の変わり方だ、面白いやつ。


 父さんが近づき、軽くこづいてきた。


「うむ、当たるな。頭を撫でた時にも触れた。つまり、敵意や明確な攻撃の意思がなければ、組み手くらいは出来そうだ」


「魔法じゃないからね。魂の拒否なのかも、僕を傷つけたくないっていう」


「まさしくそれだろう。久しぶりの強者との手合わせだ、ありがたい。オレからは何もしないから、打ち込んでみろ」


「わかった!」


 ボクは振りかぶって、強めの右ストレートを父さんのお腹に打ち込んだ。父さんは何も動じず、かかってこいと言わんばかりの笑顔のまま、「ごはぁー!!」と叫びながら吹っ飛んだ。 


「父さん! ごめん強くやり過ぎた!」


「げほっげほっ。流石だ桃太郎。人間の見た目だから油断した、次は大丈夫だ。もう一度こい!」


「うん!」


 同じように僕はお腹に右ストレートを打ち込んだ。父さんはしっかりと構えをとり、息をとめて腹筋を固めた上で、同じように吹っ飛んでいった。


「父さーん!!」


「ごああああ!! なんで人間のままでそんなに強いんだぁぁああ!」


 父さんは吹っ飛びながら叫んだ。舌を噛んだら危ないよ。

 僕はかけより手を差し伸べた。父さんが手を取り立ち上がる。


「大丈夫?」


「ああ、すまない」


「僕本当に人間なのかな?」


 人間になりたいと思いながら死んだから、人間になって転生したのかと思ってたけど。


「種族で言えば、間違いなく人間だろう。鬼という方が難しい。鬼の強さをした、人間が1番しっくりくるな。それもおそらく、純度100%の鬼だ。オレ達の先祖は人間と交配した過去がある。そこで鬼人となったので、もしかすると桃太郎にオレは勝てないかもしれないな」


「そうなの? 魔法を使えば違うでしょ?」


「魔法は強くなりすぎる。オレは桃太郎を傷つけるほどの攻撃は魂の拒否で出来ない。ママルが止めていなくても、鬼人玉は桃太郎当たらなかっただろう。よって、オレの負けだ! ガハハ、うまれて初めて敗北したぞ!」


 父さんは、それはそれは嬉しそうに笑っていた。敗北を知らないというのも、つまらないのかもしれない。

 ただ、魔法を使って、仮に僕に攻撃ができたとしたら、きっと僕は負けている。これからの戦い、油断しないで過ごそうと思う僕だった。


 ⭐︎

 ここまでの読書、ありがとうございます!

 君のためなら生きられる。と申します。 

 もし、面白かったと少しでも思って頂けた方は、星を送っていただけると幸いです! 


 今回で鬼ヶ国編は終わり、次の章へ進みます。一体次は誰が現れるのでしょうか? 

 お楽しみくださいませ!





 



 

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