1-2

「キビキビ歩……いてるな。よし!」


 いつもの癖で告げたのだろうが、僕たちが素直に従うので、なんだか気まずそうだ。


「抵抗しないよ、キジーナに乱暴しなければ」


「抵抗しないやつに乱暴することはない」


「そっか、そうだよね」


「やはり王都の人間だな、鬼であればそんな心配はしない」


「村の人間に育てられたからね。でも人間のことを悪く言うのも辞めてね」


「捕まってるのに偉そうなやつだな」


「はは、それもそうか」


「ついたぞ、ここで待ってろ」


 頑丈そうな太い鉄の檻の中にキジーナと入れられた。キジーナが怖がっているかと心配したが、なんだか楽しそうにしていた。

 キジーナが横にぴったりとくっついてくる。地べたに二人で座った。


「2人きりですね。ふふ。同じ檻でよかったです」


「危険視されてないんだろうね」


「鬼の強さは人のそれと別格ですからね。当然と言えば当然です」


「じゃあ、出ようか」


「はい。え?」


 僕は後ろ手の手錠を引きちぎった。キジーナの手錠も引っ張って外し、鉄の檻も曲げて押し開いた。 


「何してるの? いくよ」


 ポカーンと見つめてくるキジーナに声を掛ける。もう大分鬼ヶ国の内部まで入れた。王城も連行の途中に見えたので、そこに向かえばいいだろう。


「は、はい!」


 見張もついていなかった。檻は城下町の裏道を通っていたようで、他の鬼とも遭遇することなくすんなりと城の前に到着した。

 人口ならぬ鬼口もそもそも少ないのかもしれない。

 城の扉の前に辿り着くと、人と鬼の中間のような筋骨隆々な、赤い服をきた鬼がいた。


「キジーナ、この鬼が鬼人?」


「そうです!」


 僕の前に立ち守ろうとしたので、手で制した。鬼人は僕たちをみて、驚いている。


「こんにちは。王様に会いたいんだけど」


「いや、なんで当たり前みたいに挨拶してるんだ。外部の人間がどうやってここまで来た?」


 鬼人は右腕を広げ、手を開いた。すると、空間から棍棒が現れた。流石に警戒されているようだ。


「捕えられたから、出てきた」


「あの檻から自力で出たのか?」


「え、うん」


 鬼人はそれを聞くと、空を向き雄叫びを上げた。すると、2人の鬼人が現れた。すでに棍棒を持ってこちらに構えている。黄色の服と青い服を着ている。 


「緊急号令なんていつぶりだ?」


 青い鬼人が僕の右側、中央に赤い鬼人、左側に黄色い服の鬼人が移動した。キジーナが魔法を使おうと手を前に伸ばしたが、大丈夫だよ、と目線を送った。


「信じられないが、鬼檻から自力で出たらしい」


「なるほど、それは緊急だ」


「あのー、僕たち戦うつもりはなくて、王様に会いたいだけなんだけど」


「何故だ?」


「前世の父さんかもしれないから」


 鬼人たちは呆れた顔をした。いや、まあそうだよね。わかるよ。


「……だめだ、話の通じる相手じゃない。一斉にかかるぞ!」


「おう!」


 3人の鬼人が飛び込んできた。僕はキジーナの方に飛びかかった黄鬼人だけ蹴飛ばし、赤鬼人と青鬼人の棍棒を片腕で受け止めた。


「キジーナに攻撃することは許さない」


 軽く睨みつけた。手加減をしていたので、吹っ飛ばされた青鬼人もお腹をおさえながら立ち上がった。

 すると、鬼人達の表情が変わった。明らかに殺気を纏っている。3人の鬼人の体がそれぞれの服の色に輝き始める。


「【金剛の糸】」


 キジーナが僕に手を向けて何かを詠唱すると、僕の体が金色に輝いた。それはもう凄まじいオーラのように溢れ続けている。


「キジーナ、これは?」


「肉体強化魔法……ですが、本来はこんなに輝きません。かけといて何ですが、驚きです」


 3人の鬼人を見ると、口をあんぐりとあけている。赤鬼人が目配せすると、二人の鬼人は頷き棍棒を離し、手を上に上げた。棍棒はどこかに消えていった。


「……やめろ、降参する。王との謁見が希望だったな」


「うん」


「わかった、連れてってやる」


「本当に? ありがとう!」


「ああ。我々で対処できないなら、もう王しかいない」


 結構強めの鬼だったらしい。


「いいの? 危険だって扱いになったんじゃなくて?」


「王が負ける心配はしていない。お前が城下町に降りて暴れる可能性を潰した方がいい」


「暴れないよ?」


「檻から勝手に出といて、信じられるか!」


「たしかに。……キジーナ、もしかして僕って口ゲンカ弱い?」


 キジーナをみるとクスクスと口を手でおさえて笑っていた。


「はあ……こんなに気の抜ける侵入者は初めてだ。ついてこい」

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