鬼ヶ国編
1-1
「雉? お姫様みたいな君が?」
「お姫様だなんて、そんな」
雉だと自認する女性は、照れたのか頬を染めた。しかし、よく見るとたしかに雉の面影、というより僕の魂が真実だと実感している。
「お姫様じゃないの? 名前は?」
「私はこの国の奴隷召喚士です。7歳の時に前世の記憶を取り戻しました。いまは18歳、名はキジーナと申します」
キジーナは確かに奴隷といった。よく見ると服は汚れて、足には鎖がついていた。村の人よりかは上等な格好だが、お姫様というには無理があったかもしれない。そう思わせたのは、キジーナの端正な顔立ちのおかげだろう。
「キジーナ、宜しくね。また会えて嬉しいよ」
「私もです! ああ、桃太郎さま」
キジーナがまた僕に抱きついた。今度は堂々と頭を撫でると、よりピッタリと体をくっつけてきた。周りにいる鎧を着た男達がざわめいた。少し気恥ずかしい。
「俺は認めないぞ、そんなガキが勇者だ? ふざけるな」
一際立派な鎧を着た男がガシャガシャと音を立ててこちらに近づいてきた。たしかに僕はお爺さんから、16歳くらいの容姿だと言われていたから、子供に見えるだろう。
「パルコ親衛隊長、お許しください!」
キジーナが僕の前に出て、パルコといった男の前で頭を下げた。
「もう良い、うせろ、奴隷召喚士風情が。お前らの命100人を使ったのだぞ。よほど強靭な者か、魔力のある者が現れると期待していた俺が馬鹿だった」
そういうと、キジーナの肩を掴み、横に払った。小さく悲鳴をあげて転びそうになるキジーナを、僕は抱き止めた。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
キジーナは自分の両手を握り、キラキラした瞳を僕にむけた。
「ほう、少しは動ける様だな」
「キジーナを乱暴に扱うなよ」
「はっ! 早速勇者気取りか! いいだろう、このパルコが試してやる。ついてこい」
パルコはそう言って、どこかへ行ってしまった。僕は面倒なのでついていかなかった。かわりに僕はキジーナの足についていた鎖を引きちぎった。
「隷属の鎖を、魔力も使わずに素手で……! 一体どうやって」
キジーナはハッとなると、僕にペコペコと頭を下げた。自由になった足をさすっている。まだ信じられないといった様子だ。キジーナは前世で僕のお供になる契約をしている。そちらの方が強く働いたのだろう。
「キジーナ、家族は?」
「いえ、奴隷に家族はありません。私以外の召喚士はコストとして命を捧げました」
「僕のせい……か」
「決してその様なことはありません! 孤児ゆえに強制的にそうされたのです。私は中でも1番魔力が高かったため、召喚担当になりました」
「そうか。大切にしないとな、僕の命。じゃあ、いこっか」
「え? 行くって、どこへですか?」
「ここじゃない場所。キジーナを奴隷として扱う国なんて、僕は助けたくない。嫌?」
家族もいないなら尚更未練もないだろう。キジーナは想定していなかった展開に一瞬困惑したが、すぐに顔を明るくした。
「どこへでも、お供いたします!」
キジーナは僕の腕を組んだ。ニコニコと笑っていて、可愛い。
「おい!! お前らなぜついてきてないんだ?」
息をきらしてパルコが戻ってきた。戦闘用の場所にでも一人で向かっていたのだろうか。
「逆になんでついてきてくれると思ったの?」
「はあ? お前に選択肢なんて無いんだよ! ええい、もういい! ここで切り捨ててやる。お前ら、かかれ!」
パルコの後ろにいた5人の兵が一斉に襲いかかってきた。僕はそれを一撃ずつ、拳でぶっ飛ばした。
「なんだと……」
「じゃ、僕たちは出ていくから。ほっといて」
「【飽きぬ渇望】」
パルコが剣を構えてそう呟くと、身に纏う雰囲気が変わった。
「【天の羽衣】」
キジーナがそう呟くと、背中に羽がはえた。僕はキジーナに後ろから掴まれ、空いている窓に向かって飛行した。
「まて、降りてこい!!」
「すごいよキジーナ! 飛んでる!」
「長時間は飛べません、逃げましょう。パルコ親衛隊長の肉体強化魔法は強力です」
走ってパルコは追いかけてきたけど、空は飛べないみたいだ。どんどんと小さくなっていき、僕達は森の中で羽を休めた。大きな岩があったので、そこに横並びで腰掛けた。
「ふう。ここまでくれば大丈夫でしょう」
「お疲れ様。でも次から大丈夫だよ、僕が倒すから」
「いくら桃太郎さまといえど、武器も魔法もなしで戦うのは危険です。人間の強さの限界を、魔法はゆうに超えますので」
そうか、キジーナは僕が鬼だということを知らない。魔法とどちらが強いかはわからないけど。それに鬼の力の解放が出来るかまだわからない。逃げたのは正解だった。
「……キジーナ、大事な話がある」
「はい、なんでしょう」
「もし僕が、君を殺した鬼の一族の長子だったと言ったら、嫌いになるかい?」
「いえ、まったく。どうしたんですか急に?」
当たり前だろうと言わんばかりにキジーナは言った。
「黙ってたわけじゃないんだ、みんなが死んじゃってからわかったことでね。僕、鬼なんだ」
「なんと! 通りで強いわけですね、私のご主人様が鬼だなんて、鼻高々です!」
僕の予想は外れて、キジーナはむしろ嬉しそうだった。きょとんと見つめていると、キジーナは僕の手をとった。
「私は桃太郎さまが何者であっても、喜んでお供します。それに、そんなこと言ったら私なんて雉ですよ」
ふふっ、と笑ってくれた。キジーナが僕のお供でよかった。
「ありがとうキジーナ」
「とんでもないです! あ、そしたら鬼の国に行ってみますか? 人間国家と等しい一大勢力です。この国とも隣接しています」
「いいね、父さんがいるかもしれないし。今度は仲良くできるといいな」
森を抜け、キジーナがもう一度飛び国外へ出た。すると、そこはもう鬼の領域だった。よくあの国は平穏を保ててるな。いや、鬼はそもそも侵略されなければ襲わないからか。父さんの言っていた通りかもしれない。
首都へ向かいスタスタと歩いていると、3体の鬼に呼び止められた。
「まて! なぜ人間がここにいるんだ。直ちに出ていけ」
棍棒を構えた人型の鬼だ。鬼人というのだろうか。包丁のような武器を抜刀している。
「鬼の国の王に会いたいんだ。あと、僕も鬼だよ」
「私は雉です」
「はあ? お前らふざけてんのか。もういい、捕えろ!」
僕が戦おうとすると、キジーナが手で制した。捕えられた方が内部までスムーズに入るからだろう。僕達はおとなしく手を後ろで拘束されて、鬼の国の留置所のようなところに連れて行かれた。
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