シンクロニシティ

誰もいない朝の教室に二人きり。これは運命の悪戯だろうか。だとしたら神様の存在を信じてもいいかなと思った。


「4組の佐知から朝早く来るといいことあるよって言われたんで来てみたんだけど、まさか宇宙人に洗脳されかかってる花を見れるとは思わなかったよ」


むぐぐっ……。

どうやら神様の正体はさっちゃんだったようだ。さっきの「頑張ってね」はこういうことだったのね。


「ご、ごっ、ごめんなさいっ! 実は前から奥山くんが窓の外を見てたのが気になってて、どんな景色が見えるのかなって、ふと……」


「確かに俺、よく外を見てたなぁ。ん?でも何で花は俺が外見てたこと知ってんだ?」


「それは奥山くんのことが気に……、いや、あの、奥山くんのことが木みたいに見えて。ほら、背が高いから私の席からでも結構目立つんだよね。あとね、よく授業中にこっそりエアギター弾いてのも見てたよ」


「えっ、マジ? やっべぇ、チョーハズいんだけど」


奥山くんはそう言うと両手で髪をワシャワシャと掻いた。


「別に恥ずかしがることじゃないよ。軽音なんだし。私、奥山くんの右手がリズミカルに動いてるの見ながら、リズムを合わせてこっそり右手で机を叩いてたんだ。小さい頃ピアノ教室行ってたからその名残でね」


「そーなの?」


「うん。もちろんどの曲かはわからないけど、窓の外を見てるときはだいたい同じ曲弾いてたよね? そのテンポが私の好きな曲とぴったりだったので、私もそれに合わせて勝手に弾いてたの。『天国への階段』って曲なんだけどね」


「え? マジ? 『天国への階段』ってツェッペリンの?」


「うん、お父さんが大好きでよく車の中で流れてたから」


子どもが小さい頃って車の中で幼児向けのDVDとか流すものだと思うけど、うちの車はいつもレッド・ツェッペリンが流れていた。私にとってはそれが生活の一部になっていて、よく父と二人でわかりもしない英語の歌詞を適当に歌ってたっけ。


「マジかー!」


奥山くんはいきなり叫んだ。


「花、オマエ凄いな。いやお父さんが凄いのか。いやいや、俺が凄いのか?」


「ちょっと、突然どうしたの?」


「俺がいつも弾いてた曲、『天国への階段』なんだ!」


「う、嘘?」


「こんな嘘わざわざつくわけないだろ。マジかー!チョー感動なんですけどー!! 花、ありがとう!」


奥山くんは何故か両手で私の髪をシャカシャカ掻き回し、そのままギューッと私をハグした。


「いやぁ、やっぱりレッド・ツェッペリンは偉大だ。な、花もそう思うだろ?」


憧れの奥山くんにハグされた私はもちろん何も言えなかった。恥ずかしさと嬉しさで意識を失ってしまうのではないかと思えるほど。


しばらくしてやっと彼のハグから解放された私のワシャワシャになった髪を見て、


「これで金髪にしたらレッド・ツェッペリンのヴォーカルのロバート・プラントみたいだぜ」


と指差して笑った。

それは、いつもは冷静な奥山くんが見せたとびきりの笑顔だった。

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