奥山くんの席

最後の日は少しでも長く学校にいたいとさっちゃんが言うので、いつもより早く家を出て一時間ほど早く到着した。


「それじゃあ花、頑張ってね。またあとでねー」

「うん。またねー」


――ん? 頑張ってね……?


彼女の言葉が少し気になったが、そのまま校舎に入ってすぐさっちゃんと別れた。彼女の4組は一階、私の1組は二階に教室がある。


まだ人影もまばらな学校は普段の喧騒が嘘のように静まり返り、ひんやりとした空気が校舎の中を支配していた。

廊下を歩くと頬に感じる微かな風が気持ちいい。階段を登り、教室に足を踏み入れた。誰もいない教室。自分の席に座り、ふぅーっと大きく息を吐く。周囲を見渡すと、窓際にある奥山くんの席が目に止まった。

授業中よく窓の外を見ていた奥山くん。いったい何を見ていたんだろう……。

私は立ち上がると何かに引き寄せられるようにふらふらと彼の席へと歩いていく。椅子を引き座ってみる。当然のことながら何も違いはない。

そういえば奥山くんてよく机に突っ伏して寝てたなと思い、同じように突っ伏してみる。頬が机にペタっとくっついた。


――こ、これはっ、間接ほっぺたぴったんこ!?


そんなことを考えたら恥ずかしくて顔が火が出るくらい熱くなった。

暫くそうしていたが、さすがにこんな姿を誰かに見られたら大変なことになってしまう。名残惜しいがそろそろ自分の席に戻らなきゃ。そう思った瞬間、青い空に何かがキラリと光った気がした。


――え? なんか光ってる? 星? まさかUFO?!


じーっと見ていたら目がしょぼしょぼしてしまい、瞬きしたらその光を見失ってしまった。

私はムクッと起き上がり、もう一度その光を探そうとした。その時、


「そこ、俺の席なんだけど……」


奥山くんの席に座りながら、取り憑かれたように窓の外を眺めている私の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

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