目撃者
「そこ、俺の席なんだけど……」
その声は低く、でも優しく、この2年間教室の中で私が密かにずっと追いかけていたものだった。
「おっ、おっ、奥山く……ん……?!」
突然のことに古いブリキのおもちゃのようにギリギリと音を立てながら振り向いた。
憧れの奥山くんが怪訝な顔で立っていた。
「花、何してんの?」
「えっ? あっ、あの、えーっと、そう、ゆ、UFOを見てたのっ!」
「は? UFO? こんなに明るいのに?」
「うんっ! 青空の中に見えたんだよ、白く光ってたの。私、ビックリしちゃってね。それでもう一度見ようと思って一生懸命探してたんだけど、どこかに行っちゃったみたいで、それで、あの、えーっと、なんだっけ?」
盆と正月が一度に来たような状況に私は明らかに挙動不審だ。
「ふーん。で、何で俺の席で?」
奥山くんは左手で右肘を持ち、右手の親指と人差し指を顎にあてフムフムと言いそうな格好で私を見ていた。
「そ、それは、自分の席に座っていたのにUFOの光を見たら身体が自然に動いて、気がついたらこの席に……あっ!なんで私は奥山くんの席にいるのかしら?これはきっと宇宙人の仕業だわっ!!」
自分でも何を言ってるんだか訳がわからない。
「クックックッ……な、なるほど、それは大変だったな。お疲れ様」
奥山くんは下唇を噛んでヒクヒクしている。
「ぷはぁ~、無理無理! 右のほっぺただけ赤くして、花、オマエ面白いな。熱あるんじゃねーか?」
そう言うと右手を上げ、私の額にピタリとあてた。
「は? は! はうっ!?」
まともに話をしたこともなかった憧れの奥山くんの予期せぬ行動に、私は口をぽかんと開けたまま固まるしかできなかった。
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