さっちゃん
「花とこうして一緒に学校に行くのも今日で最後か……。何だか寂しくなっちゃうな」
川沿いの小径を歩きながらさっちゃんが呟いた。
そう、今日は卒業式。さっちゃんとは小学校からずっと一緒で、電車通学となった高校からは毎日待ち合わせて同じ電車で通っていた。
晴れの日も雨の日も、嬉しいときも悲しいときも、私たちはいつも一緒だった。
「4月から花は東京の女子大生かー」
さっちゃんが少し羨ましそうに言いながら空を見上げる。川の両岸に並んでいる桜の木々はまだまだ固い蕾のままだ。
「花と会えなくなるのは寂しいな……」
「うん、そうだね。私も寂しいよ。でも、ほら、さっちゃんには吉尾くんがいるじゃない。私なんかいたらお邪魔でしょ?」
彼女には吉尾くんという恋人がいる。バスケ部のキャプテンでとても素敵な人だ。こんな私なんかにも優しく話しかけてくれる。
「えっ、いや、それとこれとは別だからさ」
さっちゃんは嬉しそうにはにかんだ。こういう表情は同性の私から見ても抱きしめたくなるくらいに可愛い。
「そういう花はどうなのよ、奥山くんのことは? 今日告白するんでしょ?」
「……うーん。でも私東京に行っちゃうし。それに私なんかに告白されてもきっと迷惑だと思うんだ。だから、ね」
私が想いを寄せる奥山くんは、軽音楽部の副部長。担当はベース。チャラい部員が多い軽音楽部の中ではレアな普通の人。それでいて頭もよくてなかなかのイケメンなので隠れファンが多いらしい。私は彼がふとした時に見せる、遠くを見るような目に惹かれた。
でも同じクラスなのに私は彼と話したことがない。私なんかが話をしては申し訳ないと思っている。
もし私がさっちゃんみたいに抱きしめたくなるような可愛い女の子だったら、告白したのかもしれない。
ちんちくりんのくせに鬱陶しいほどのボリュームの髪。今日みたいに湿気が多い日はぽわんぽわんに広がって収拾がつかなくなる。極度の近視で度の強い黒縁眼鏡。ボンッもキュッもない幼児体形。運動部でもないのに大地にそびえる二本の太い足。
そんなルックスに加えて、人と話すのが大の苦手。十八歳にもなって男性と上手く話しをすることができない。そんな情けない、これといって取り柄のない地味な女の子が私だ。
「でもさ、自分の想いを伝えるって大事なことだと思うよ。踏み出さなきゃ何も始まらないでしょ。私、花にはそういう勇気を持ってほしいんだ。私、花のこと大好きだからさ」
「ありがと、さっちゃん」
私たちはたくさんの思い出とたくさんの想いを抱えながら、三年間通った学び舎へと向かった。
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