湿気は大敵

――ひゃー、髪がまとまらないよぉ!!!


朝から私はドライヤーを握りしめて鏡の前で奮闘していた。マイナスイオンを発生させてくれるという高性能なやつだ。菜種梅雨っていうんだっけ?三月だというのに連日の雨。やっと今日は雨も止む予報だが、いかんせん湿度のせいで毛量の多い私の髪は爆発事故にでも遭ったかのように広がっていた。


「女の子は朝から大変だなぁ」


歯を磨きに来た父がポツリと呟く。

この毛量とくせっ毛は父親譲り。血は争えないものだ。

「あなたのせいなんですからね」と指を差してビシッと言いたくもなるけど、大好きな父なのでグッと言葉を飲み込んだ。

私は少しファザコンの気があるかもしれない。両親にとって遅くに授かった待望の子だったので小さい頃から蝶よ花よと育てられた。

特に父は私が女の子であることも気にせずキャンプやラフティング、山登りといったアウトドアレジャーに連れ回していた。物心ついた頃にはお父さん大好きっ娘の出来上がりだ。


やっとのことで髪型をキメた私は、ドタバタと階段を何往復かして準備を整えた。


「それじゃあ、行ってくるね」


「行ってくるねって、こんなに早く行くの?」


母がキッチンから顔を出す。


「うん。さっちゃんが最後だから早く行っていろいろと思い出を刻みたいんだって」


「あら、そう」


「お、花もう行くのか?」


「うん、行ってくる」


「気をつけてな。そうだ、玄関で3人で写真撮らないか」


「えー、ごめん。ちよっと時間がないんだ。帰ってきてからでいい? それなら卒業証書も広げて撮れるし」


「あぁ、そうだな」


「父さんと母さんも後から行くから。気をつけて行くんだぞ」


「うん。じゃあまた後でね。行ってきまーす!」


私は椅子に置いていたバッグを肩に掛けると勢いよく飛び出していった。

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