いっつ おんりー ろっくんろーる ばっと あい らぶ ゆー

きひら◇もとむ

序章

――あ、月だ


授業中、ふと窓の外に目をやると、白い月が青空にペタリと貼り付けられたかのように浮いていた。

夜空に煌々と輝くのと違い、まるで存在感のないのっぺりとした姿だ。


――あぁ、眠い……


昨日オンラインゲームで盛り上がったのが良くなかったようだ。興奮のためかなかなか寝つけず、何となく手にしたスマホでおすすめに上がってきたツェッペリンの動画を見だしたらハマってしまい、気がついたら外は明るくなっていた。


軽音楽部の僕はバンドを組んでいる。女の子がリードヴォーカルのJ-POPカバーバンドのベース担当だ。いきものがかり、ドリカムそのあたりを演っている。ホントはツェッペリンとかパープルとかでギターをかき鳴らしたいんだけどね。

一応副部長なので自分のことより周りを優先させている。だからベーシストが足りないという声が上がった時に「じゃあ俺やろっか?」と呟いたら即メンバーとして迎えられた。

ウチの部の連中はどういうわけかJ-POP好きがほとんどだ。


中学3年の秋、この学校の文化祭を見学しに来た時にはオアシスやニルヴァーナ、Mr.BIGなどが演奏されていて、一緒に来ていた友人たちと離れてずーっと見ていたっけ。

しかし僕が入学すると入れ替わりで先輩たちは卒業し、僕がこよなく愛するロック色は一気に薄くなっていったのだった。

つまり演りたい音楽を演ることができず、悶々とした高校生活を送っていた。

だからふとした時にその手の曲を聴くとスイッチが入って止まらなくなっちゃうんだ。で、寝不足になったというわけ。


そんなわけで、僕は夢と現実の間で行ったり来たりを繰り返していた。


「えーっと、はい、じゃあ今日は10日だから出席番号10番の人。続きから読んで」


川田先生お得意の出席番号当て。このあとはだんだん数字が増えていくのがお決まりのパターン。そう、今日は僕が当てられることはない。4番の僕は自由を手に入れたのだ。

僕は睡魔と戦うのをやめた。もともと争いごとは好まない性格だ。

僕が座る窓際の席は穏やかな陽気の恩恵を受け、快適な眠りへと導いてくれる。

意識がスーッとどこかへ飛んでいく。気がつくと僕は夢を見ていた。


――ここは雲の中だろうか。真っ白で何も見えない。遠くで誰かが喋っている。ちょっと自信なさげなその声は何故か僕の心に響いてくる。僕は目を閉じて身を委ねた。聴いているだけで身体中がその声に包まれていく感じ。気持ちいい。何を話しているかはわからないが、ずっと聴いていたいと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る