桜の花びら

「えー!告白しなかったのー?」


学校から駅までの川沿いの道。

私の報告にさっちゃんは少し残念そうな顔を浮かべた。


「うん、ごめんね。せっかくお膳立てしてもらったのに……。なんか盛り上がりすぎて告白とかって雰囲気じゃなくなっちゃってさ」


「……そっか」


さっちゃんは優しい。それ以上追求したりしない。


「告白はできなかったけど最高の思い出ができたよ。さっちゃんのおかげ。ありがとね」


「うん……。あ、桜の花びら!」


どこから飛んできたのだろう。ひらりひらりと一枚の桜の花びらが舞っている。不安定に向きを変えながら落ちたかと思うと風に煽られ舞い上がる。まるで私みたいだなと思い、ついつい立ち止まり目で追う。


「花ー!」


背後から奥山くんが走ってきた。


「お、奥山くん!?」


「ハァ、ハァ、ヤバっ、運動不足だぁ」


両手を膝につき、肩で息をしている。


「どうしたの?ま、まさかこんなところで歌えとかじゃないよね?」


突然の登場に心がときめくとともに、背中のギターケースを見ては大きな不安が脳裏をよぎる。


「違う違う。あのさー、俺、後期日程で第一志望の東京の大学に合格したんだ。さっき発表になってさ。最初に花に言いたくて追っかけてきた」


奥山くんはポケットからスマートフォンを取り出すと、合格通知の画面をまるで水戸黄門の印籠のように私の目の前にかざした。


「わぁー良かったね!おめでとう!」


パチパチと拍手しながら祝福していると、横で話を聞いていたさっちゃんが肘で私を突っつきながら呟いた。


「東京の大学に合格したってことは……」


「そう、そう!佐知はわかってるなぁ。なぁ花、バンドやろうぜ!」


「え?え!え〜っ!?」


激しく戸惑う私を奥山くんは真っ直ぐな笑顔で見ている。

さっちゃんはニヤニヤしながら何か言いたそうな顔だ。


奥山くんが右手をポケットに突っ込み、何やらゴソゴソとしていると思ったら、


「卒業おめでとう!」


と叫んで、どこで拾ってきたのか、たくさんの桜の花びらを放り上げた。

ひらりひらり、無数の花びらが祝福するかのように私たちに降り注ぐ。

そして風に煽られて再び舞い上がる。


きっとこれからの私も私たちもこんなふうに舞い上がって行けそうな気がした。


そう、どこまでも高く高く……。



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