人と人とは違う要素を持つ人々が生きる世界。そこで出会った運命の二人

 コーブルクの街に住むラーレは何やら病を抱えて診療所で医師に診断を下されているところから物語は始まります。

 その医師ヴァレオが言うことにはラーレは人人種(じんひとしゅ)で、人の成分しか含んでいないのに、魔力の生成が多い上に、人由来魔力を過剰に吸い寄せてしまう、のだそうです。
 何のことやらと思ってしまいますが、この診断を下しているヴァレオもまた、人鉄種と言って、人型の体に金属成分を含む上に、頭部が取り外し可能というなんともびっくりしてしまう人なのですが、それ以上に彼の行動力と言動にびっくりしてしまいます。

 ともあれ、ヴァレオと共に(というか半ば押し流されるように)森の中の村、ルスヴァルクにやってきたラーレは人木種の青年ヘンリクと出会い、彼の差し出した野苺を勧められるままに口にするのですが——。

 病を癒すための必要に迫られた出会いからの突然の結婚。初めはわからないことだらけですが、人ではない人々のそれぞれの特性と確かな人の営み、揺れ動く心のありようが丁寧に描かれていきます。戸惑っているのはラーレだけではなく、ヘンリクもなのですが、終始穏やかなヘンリクと、少しずつ心を開いていくラーレの様子が本当に優しく心に染み入ります。

 何よりも素敵なのが二人が結婚した後の「星のお砂糖」を浮かべたお茶。こんな風に世界を捉えることができるんだなあと物語ならではの描写にうっとりしてしまいました。

 二人の絆が深まっていく中で語られる人木種の生涯や物語屋としてのあり方、そしてちょっと変わった人だなと思っていたヴァレオとヘンリクの思いがけない過去。

 少しずつ紐解かれていくこの世界の人々の物語をもっと読んでみたいなと思わせてくれる、温かさと不思議に満ちた素敵なファンタジーでした。