アイツとの邂逅によって、過去と今がつながる

止まっていた時間が、再び動き始める

 腕組みのまま仁王立ちの円花と、しばらくの間、じっと見つめ合う。


「いや……その」

「修兵さ」


 『あんまりヒスるなよ』なんて吐かしたら、ドヤされるだけですまないような。


 オレの迷いを気にかけることなく、

「一時間だけの約束。さっさと起きるの」

 呆れた表情を浮かべて、円花がのたまった。


「別にいいじゃない。好きなだけ、休ませてあげても」


 コツリと床の鳴る方へオレは顔を向ける。なじみのサーッと流れるレール音と同時に、カーテン裏から白い光が弾けた。


「はい。体温計」

「ウッス」


 白衣姿の野間ちゃん、どうせなら寝起き一発目で見たかったな。腐れ縁の幼なじみの怒った顔よりも先にさ。


「甘やかさないで下さい。先生」


 オイオイ、オンナの嫉妬って怖いな。野間ちゃんに食ってかかる円花をよそに、オレは床に揃えた上履に足を突っ込む。


 今後の予定、めんどうな補習なんだよな。バックれたい気分だぜ。


 ――部活辞めてから、たるんでいるんじゃないか?


 貴重な昼休みを潰した担任の、キツいひと声が前触れもなくリピートする。中間テストの結果が思わしくない。オレが不甲斐ないってのも理解しているつもり。


 言い訳がましいが、部活は辞めたのではない!


 顔もろくに知らない、モブパイセンの不祥事発覚で無期限の活動停止。



 入部三日目で起きた処分の巻き添えで、期限付の帰宅部員をやらざるを得ないだけ。運動音痴のインキャ野郎に『部活を辞めて』とか、言われる筋合いはない!



 おっといけね。トリップから戻るの遅れたら、円花に何を言われるかたまったもんじゃない。


「熱は?」


 野間ちゃんのお色気流し目を受けて、オレは体温計を差し出した。


「うん大丈夫。これなら問題ないわ」

「ありがとうございます」


 サボりのワンモアチャンスはなかったか。残念としか言い表せない。


「ホント、さっさとしなさい」


 怒りん坊チックだな今日の円花サンは。野間ちゃんにもう一度、お礼を述べてからオレは保健室の扉を開けた。



 窓からの日射しがオレたちの影を濃くする。教室まであとわずか。オレたちは無言のまま、廊下の角に差しかかった頃だった。


「あっ! ヤバ」


 出会い頭に正面衝突とか、ついていないよな。


「うそでしょ」


 バサっと床に散らばる紙だけど、ざっと見どれくらいの枚数なんだろ。

 あーあ、やっちまったなと。身動きの取れないオレをよそに、円花は紙を拾い始める。


「ちょっと」

「はい?」

「手伝いなさいッ」


 そんな風に怒らなくても。円花のグチにヘキヘキしながら、一、ニ、三と紙をかき集めた。


「はいよ……」

「貸して」 


 返す前にもぎ取るなって円花サンよ。

 紙束の端とハシを揃える彼女の手元の紙には、

『花ノ杜学園ジャーナル。特報調査員急募中』

 ちらっとだけ広告文が見えた。


 ウチの『学園ジャーナル』って確か、掲示板に飾るヤツを作る部活だったような。

 活字モノは教科書と辞書、スポーツ紙でしか見ないから、何やっているのかさっぱりわからない。


「ありがとう」


 気づいたらもう、あの子はオレたちの脇を去って行く。今時ながら染めていない、細長い髪をサラッと揺らしながら。

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