仕組まれた展覧会で目にしたモノは
アイツも色々と、苦労が絶えないらしい
炎天下の校庭に土埃がわき立つ。梅雨の真っ最中なんだから、今日くらい晴れなくてよかったのにな。
「そっち、ボールを追えよ」
クラスメイトの叱責に脚がもつれながらも、オレは相手のドリブル阻止を試みた。
「ウソだろ」
部活動の無期限停止以来、運動不足も祟って息が上がる。規則正しく音を刻む笛さえも重苦しいばかりだ。
「あぢィ」
加藤よ……ワザとらしく弱音を吐くなって。暑いのはみんな一緒だからさ。
「あっ……」
「どうした」
息を吐く合間に見知ったヤツが、涼しい顔でゴールに向かって走る。
「二組のアイツ」
「ああ、サッカーもイケる口なんだな」
脚を止めて高梨のドリブルに見惚れていたら。
「止まるなッ! そこ走れッ」
サッカー部の補欠くんから叱責されてしまった。
「アイツに言われたくねえよな」
苦笑いを浮かべる加藤の問いかけに、
「だな」
軽く相槌を打つ。
名無しの補欠くんに急かされるまでもなく、オレたちはボールを追いかけた。
試合終了の合図とともに二組と向かい合わせで並ぶ。集団も徐々にバラけた先に、高梨の背中が視界に飛び込んだ。
結構、サッカーも上手いのに、アイツが部活動に参加しない理由。何かあるのだろうか?
「最近、二組の秀才とつるんでいるようだけど」
「なんだよ急に」
「とっつきにくそうなのに、よく、付き合えるなと……」
県外出身と言っても、運動部目当てでウチに来た訳ではないから、特定のグループに属するってタイプじゃない。
「優等生にしちゃ」
「ん?」
「見かけによらず、扱いにくいって感じではないかな」
少し間を空けてから、加藤の耳打ちに小声で返した。
「フン。ならさ、ちょっとつき合え」
「はい?」
オイオイ、袖を強く引っ張るなって! 周囲の冷やかしを気にも止めず、オレと加藤は高梨の真横まで駆け寄った。
コイツもジャーナルの調査員をやりたいのか? オレより国語の成績悪いくせに大丈夫かよ。
「小池? それと」
「明新會で一緒の……」
「キミ。ここの生徒だったんだ」
「へ?」
自分の存在が高梨の記憶からフェードアウトしているからって、そんなに肩を落とすなって。
「あのさ、小池とこれからメシでも……」
「ああ、どうも。購買でパンを買いに行くとこなんだ」
夏場はどうしても手弁当を食べる気にはなれないから。
まあ確かに、食中毒リスクの高い季節だよなぁってとこで、着替えを後回しに野郎が三人、肩を並べて購買部へと向かった。
「ちょっと失礼」
狭い店内は昼メシを求める生徒たちで混雑していた。
「あったあった」
焼そばパン、ツナサンド、ハンバーガー。
冷蔵棚には、地元メーカー特産のカフェオレ、加藤はイチゴオレ。高梨がミルクティーオレをチョイスする。
うーん、地元勢のオレたちとアプローチが違うな。
「ホントにここで食べても大丈夫か?」
購買を離れて五分もかからない。屋上に通じる階段を上ってすぐの踊り場の端っこ。
人の行き来さえじゃましなければ怒られたりしないって、加藤の説明をよそにオレは好物のツナサンドを頬張った。
「そうだ! 今度、見学に行く施設ってさ」
「えっと……恵風苑だっけ」
オレが介護施設の名前を口走る側で、高梨が眉をひそめる。
「そこ、曽祖母がいるんだ」
「へえ、年いくつ?」
加藤ののんきな問いかけに顔色を変えず、
「九十は超えているよ」
高梨がボソッとつぶやく。
ラーメン屋で話した時は、どこにいるのかなど。加藤みたいに、根掘り葉掘り聞き出す訳にもいかなかったから、オレは黙ってカフェオレを胃袋に流し込む。
パンを平らげ、一息入れたタイミングで、
「大変だな。あそこの入居費ってお高いって聞くけど」
有り体の話題をふる。
「マジか?」
「らしいぞ」
介護のパートやっているお袋から、職場の愚痴とか聞かされている。その成り行きで仕入れた情報なんだけど。
「ウチは母も正社員で働いているから、なんとかやっている感じだよ」
だから、運動部ではなくてあっちを選んだのか。なんて無神経な問いかけは、ついぞ口に出せなかった。
前略 あの頃のオレたちは、未来と今がつながるなんて信じていなかったけれども…… 赤羽 倫果 @TN6751SK
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