カップルラーメン ~その後~


 SE///ガヤガヤとした店の音。注文したカップルラーメンが届く。


「わー、待ってましたぁ~。うーん、色は花柄で可愛いけど、このすり鉢どんぶりは目の前にすると迫力があるね。うんうんッ」


 目の前にした特別カップルラーメン円満味噌トンコツの迫力にはしゃぐ子どものような反応を魅せる永吉さんを可愛いと思いながら、こちらもラーメンの迫力に頷く。


「ね、凄いよねっ。チャーシューや海苔もハート型になっててお野菜も色々入ってて可愛いのに、圧巻だよ。と、感想ばっか言ってると伸びちゃう。さ、食べよ食べよう」


 永吉さんが取り分け用の小どんぶりに手にとり、取り分け箸で麺を持ち上げた。


「わーっ、麺も極太だねぇ。チャンポンとかに使う麺よりも大きいんじゃないかなぁ。あははッ」


 まるでうどんのような麺に目を輝かせながらラーメンを取り分けてスープを注ぎ、具材を入れてゆく。こっちの分まで取り分けてくれて申しわけない。


「いいよこれくらい。ラーメン取り分けるのも楽しいしさ。さあ、それではいただきま~すッ」


 永吉さんのいただきますの声と同時にこちらもいただきますをして一緒にラーメンを啜った。



 SE///ラーメンを啜る音



「ん~ッ♪ はあふ──ズズッ」


 永吉さんの美味しくて幸せそうな声が聞こえる。確かにこのラーメンは麺の食べごたえがあって、味噌トンコツのスープが絡んで美味い。ハートの海苔はスープに蕩け混じってしまったけど、またそれが美味さを引き立てているような気がする。


「ふぅ、美味し。あ、お兄さんも食べ終えた? 麺のおかわりは、あ、今度は自分でやる? うんわかった。え、最後のチャーシューくれるのッ。ありがとう、ん~、ウマい」


 永吉さんは楽しそうに麺のおかわりを小どんぶりに追加し、俺が譲った最後のハート型チャーシューを至福と頬張っていた。その姿を見ながら、このラーメンが美味いのは味も確かにそうだが、幸せなラーメン笑顔の彼女と向き合って同じラーメンを食べているから、もっと更に美味いと感じられるのかも知れない。


 特別カップルラーメン円満味噌トンコツを二人であっという間に平らげてしまった。


「はぁ~、ボクいま幸せだなぁて感じ。エヘヘ~」


 こちらも同じくと笑い合いながら同時に腹をさすった。







「う~ん、念願のカップルラーメンが食べられて最高だったなぁ。今日はありがとうねお兄さん」


 宇月亭を後にしてしばらく腹ごなしに歩きながら永吉さんは満足げに弾んで歩く。こちらこそありがとう、最高だったよ。と、言うと、永吉さんは立ち止まってこちらを見上げる。


「ホント、だったら嬉しいなぁ。もしかしたら、今日は無理やりに誘っちゃったかなって、内心ドキドキしてたから」


 無理やり誘われたなんて思ってもない。本当に君とラーメンをまた食べられるなんて幸せなことだよと言いたい気持ちを抑える。今日は楽しかった。また来たいねと、いま口から紡げる言葉を出すだけで精一杯だ。こちらのドキドキとした喧しい心の音を聞かれてはいないだろうか。


「ッっッッ──また一緒にボクとラーメンを食べに行きたいてホント? 本当にホントッ」


 永吉さんがこちらに身体ごと向き直って顔を近づけてきてちょっと焦るけど、本当だよと伝える。君に嘘は絶対につかない。


「じゃあさ、またラーメン。約束ねッ。連絡先も絶対に消さないからッ、絶対のヤクソクッ。カレシのフリなんてもうしなくてもいいんだからねっ」


 ああ、絶対の約束をすると頷くと彼女は最高に可愛い満面な笑みを魅せた。


「あの、ボクの事はこれからは下の名前、新芽あらめって呼んでよね。えへへ、ようし、今度のラーメンをどうするか打ち合わせをしようよ。あ、一緒に受験勉強するのもイイよね。大学には行くんでしょ? ボク、大学は共学に行くて決めてるんだけど、もしかしたら同じとこ──て、どうしたの変な顔して?」


 そうだった、永よ──新芽さんは同学年だと勘違いしてたんだった。嘘はつかないと決意したので正直に話す。


「ぇ?……えーッ──お兄さん一学年下だったのッ!! お兄さんがお兄さんじゃないとかウソでしょッ?!」


 ウソでしょと言われても困るが、新芽さんの驚いたキレイな声が街に響くのだった。


~完~





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永吉さんとラーメンを もりくぼの小隊 @rasu-toru

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