注文 カップルラーメン
SE///行列に並ぶカップル達の声。
特別カップルラーメンを求めてカップル専用列の最後尾に永吉さんと二列で並ぶ。
「ふぃ~、馬杉らぁめんの時よりは短めな行列そうだね。数量限定も余裕がありそうだよ」
永吉さんはホッと息を吐いて笑みをこぼす。確かに、前の行列よりは短めだが充分に列はできている。こんなにもラーメン好きなカップルは多いという事だろうか。
「うん、そこはボクも油断しちゃったな。ラーメンはだいたいひとりか家族で食べに来るからさ。ラーメンを食べるカップルてこんなに多いかったんだね。まぁ確かに特別カップルラーメンを作るくらいだしラーメン好きな恋人達には有名だったんだろうなぁ。はぁ、ラオタなのにラーメンの無限の可能性に気づけてなかったボクはまだまだだなぁ」
永吉さんはウンウンと頷く。どことなく嬉しさの溢れた眼差しで行列を眺めている。もしかしたら、こちらのようにフリな恋人同士も何人かいるかも知れないが、目の前で仲睦まじく手を繋いでいるカップルは正真正銘な恋人同士だと信じられる。
「ぁ……ね、ねぇ、ボクたちも手、をさ、繋いでみる。ほら、ちゃんとお店の人にもカレシカノジョに見えるようにしないとさ……だから、ね?」
永吉さんもカップルのお手手繋ぎが見えたようで、ちょっと恥ずかしげな上目遣いで指をこちらに手の甲に当ててくる。確かに、手を繋いだ方が恋人同士とわかりやすいなと同意する。こちらにとってはまた役得ではあるので断る理由は無い。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします。ぅ──わァ~……男の子の掌って感じだねぇ。クラブ活動とかしてたりするの? なんてね、ぇへ」
おずおずと触れあうお互いを包むように握った掌は思ったよりも柔らかくて暖かくて、守りたいほどに小さな指だ。少し震えているようにも感じたが向けられた笑顔には安心と信頼が感じられてきて、永吉さんの安心の温もりを握り返したいと思い、優しく力を入れた。
「んッ……うん、なんか、いいもんだね。誰かと手を繋ぐって、なんていうか、陽の暖かさに触れてるみたいでさ」
永吉さんも小さく握り返してきてこちらも頷きで返した。
SE///ガヤガヤとした店内の音。
しばらくして店内に入ることができた。特に恋人とかの証明はいらないのか店員さんがにこやかに二人個室テーブル席まで案内してくれた。
「あ、手をさ、繋いだままだったねボク達。あはは、えと、放そうか?」
照れくさげな永吉さんの声に手を繋いだままだったことに気づいた。なんだか少し名残惜しい気もするがこのままだと席に着けないので放そうかという。
「うん、そだね、じゃあ、いっせーのせで放そうよ。いくよ、いっせーの、せっ。よし座ろう」
気のせいか永吉さんもどこか名残惜しく感じてくれている気がする。自惚れかも知れないが少し寂しそうに離れた手をさすっているように見えた。
そして、後ろでお冷を持ってきた店員さんがにこやかな笑顔でこちらが着席するのを待っている事に気づかなかった。
「うわぁっ、すみませんッ。あの、詳細な注文はまた後でお願いします」
永吉さんはまるで電話応対する事務員さんのような反応で慌てていた。
「よし、それじゃどの特別カップルラーメンを食べるか決めようよっ」
永吉さんは恥ずかしさを隠すようにカップルラーメン専門と書かれたお品書きをテーブルの上に開いて見せるのだった。
「SNSのラーメン批評サイトの画像で見たことはあるけど、こうして、お店のラーメンの香りを感じながら見るとまた格別だね。早く食べたいよ。えーと、今回は味噌とトンコツの二つで太麺かぁ。二人のご縁が太くありますようにて意味合いもあるんだね、なるほど。具材もチャーシューや海苔がハート型に成型されてて可愛いなぁ」
永吉さんは目を輝かせて特別カップルラーメンを幸せそうに眺めてお品書きに書かれた説明も楽しんでいるようだ。
「ねぇ、お兄さんは味噌とトンコツどっちを食べる? ボクはお兄さんと違う味を食べようかなって思ってるんだけど」
なるほどと頷いてお品書きを眺め、何故か永吉さんがスルーしているラーメンを指差した。
「ええっ、円満味噌トンコツって、これカップル同士がひとつのラーメンをシェアするやつじゃないっ。え、つまりはボクとシェアするってこと? 本気でッ?!」
永吉さんはなんだかちょっと慌てているがちゃんと専用の取り分け箸とレンゲ、取り分け小どんぶりもあるようなので問題は無いかなと思ったが、やはり嫌だっただろうか。
「い、イヤてわけじゃ……確かに、このすり鉢どんぶりの大ボリュームには心惹かれるし、食べるならコレかなともちょっとは過ぎったけど……お兄さんはイヤじゃないの? ボクとのシェアラーメン」
嫌じゃないと伝える。むしろ嬉しいという心の声はしまっておく。
「そ、そうなんだ。じゃぁ、頼もうか。特別カップルラーメン円満味噌トンコツ……すみませんッ。 注文お願いしますっ」
永吉さんは意を決して手を挙げ、店員さんを呼び注文を伝えるのだった。
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