過ぎ去りし過去、あるいはいずれ訪れる未来

この作者様の作品を拝読するのは二作品目ですが、やはり「日常」をありのままに書くのが上手いのだと思わされます。だからこそ一回読んだだけでは「ふーん」で終わることもあるのですが、スクロールして三回四回と読むと物語が徐々に色づいていくんですよね。小さな発見があり、それが記憶に沁み込んでいく。同じような体験をしたことがなくとも、心の隅に既視感が生まれる。そんな小説ならではの旨味を味わわせてくれます。

その理由として、多くを語らない作風がポイントだったりするのではと思います。適度に客観的な描写で、物語の中身にあまり干渉しない。「それは不親切では?」という声もあると思いますが、だからこそ為せる技だと考えられないでしょうか。作者が物語の骨組みを作り、あとは読者がそれぞれ好きに肉付けしていく。いうなれば共同作業。そうしたことを促してくれるのが、この作者様の強みだと個人的に思っています。

心のどこかに眠る記憶、想像する楽しみ。それらと親しみたい方は、是非ともこの作品で癒されていってください。

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