第4話 親友との絆

「真莉愛ちゃん、最近学校来てませんよね?」


 乾さんは眼鏡の奥の悲しそうな瞳で僕に問い掛ける。


「そうだね。ここ最近は休みが多いと思う」


 昨日からタイムリープした身なので詳しくは分からないが、一周目の記憶では真莉愛は二年の一学期辺りから登校しない日が増えた気がした。


「この前、夜の駅前で真莉愛ちゃんを見たんです。でも髪の毛を金とか茶色に染めてピアスをつけた人たちとご一緒してて、恥ずかしながら怖くて話し掛けられなかったんです」

「そっか……まあ、それはしょうがないよ」


 真莉愛はこのまま学校に来なくなり、二年の終わりに正式に退学する。

 噂ではその後出産し、結婚して、半年後には離婚したらしい。

 シングルマザーになった真莉愛は、夜の街で働いていた。

 すべて親友の裕太くんから聞いた話だ。

 適当な噂話はしない人だから事実なのだろう。


「このまま真莉愛さんが学校に来なくなったらどうしましょう」


 乾さんは元々白い肌をさらに青ざめさせていた。

 今では優等生とヤンキーギャルという真逆の二人ではあるが、小学校時代は親友だった。

 心配する気持ちもよく分かる。


「まあ、平気なんじゃない? ほら、真莉愛ってああ見えてしっかりものだろ。そんな変なことにはならないって」


 気休めを言うも、声が震えてしまった。

 そりゃそうだ。

 嘘なのだから。


 真莉愛はこれから、かなり大変なことになる。

 恐らくいま乾さんが思っているよりも、波乱万丈な人生だ。

 でもその未来を変えるということは、また一周目の行動を大きく逸脱することになる。

 ズルい僕は知らない振りをしてしまった。


「そうでしょうか? 私はなんだか胸騒ぎがします」

「うーん……まぁ、心配ではあるよね」


 この頃の一周目の僕は初恋の人である空音さんが亡くなり、悲しみに暮れていた。

 正直、幼馴染みの真莉愛が退学したこともずいぶん後から知ったくらいである。

 ましてやこうして乾さんが心配していたなんて、知るよしもなかった。


「私、やっぱり真莉愛ちゃんにに会ってきます」

「待って。会ってどうするの?」

「もちろん学校に来て欲しいってお願いします」

「そう簡単にうまくいくかな?」

「あの金髪のお友だちににもお願いしてみます。真莉愛さんに付きまとわないでくださいって」


 乾さんは真剣な顔でそう言った。


「それは危ないって。やめておいた方がいいよ」

「いいえ。大切な親友のためですから。それに話せばきっと分かってくれると思うんです」

「それはどうかなぁ」


 そんな半グレみたいな人たちが、話し合いで分かってくれるとは思えない。

 でも乾さんの暮らす世界では、話し合いで分かりあえない人なんて存在しないのだろう。


「それでは今から行ってきます」

「待って。僕も行くよ」


 やっぱり幼馴染みの人生が転落していくと知っていて、見逃すことは出来ない。

 それに乾さん一人だと危険な気がした。

 僕は乾さんと共に真莉愛の家へと向かった。



 真莉愛の家は工場近くにあるスナックや飲み屋が集まる通称『昭和臭通り』にある。

 掘っ建て小屋のようなバラックが数軒並ぶ中の、『スナック ごめんネ』の二階が真莉愛の家だ。

 ちなみに一階のスナックは真莉愛のお母さんが一人で切り盛りしているお店である。


 錆びだらけの外階段を上がり、インターフォンを押すと中から部屋着姿の真莉愛が出てきた。


「ンだよ、お前ら。なにしに来たわけ?」


 僕らを見るなり、真莉愛は不快そうに顔を歪めた。


「真莉愛ちゃん、最近学校に来てませんよね? 心配で様子を見に来ました」

「はあ? なにそれ? ウザすぎ。今日配布されたプリントでも持ってきたのか? それとも給食のコッペパン届けに来たわけ? 小学生じゃねぇんだから」


 はい、話し合う気ゼロ。

 真莉愛は迷惑そうな目で、乾さんを睨んでいた。


「真莉愛ちゃんコッペパン食べたかったんですか? 買ってきます」


 乾さんは天然なのですっとんきょうな返しをしてしまう。

 それが余計に真莉愛をイラつかせてしまう。


「余計なお世話するなってこと! あたしが頼んだ? 頼んでないよね?」

「心配しろって頼まれなきゃ心配しちゃいけないのかよ?」


 わがままが過ぎるので口を挟む。

 真莉愛は殺気だった目で僕を睨んだ。

 一周目の僕なら怯んでいたかもしれない。

 しかし三十過ぎのおっさんからしてみればギャルに睨まれるくらい屁でもない。


「心配するだろ、友だちなんだから」

「ウッザ。あんたらと友だちごっこするほど暇じゃねぇんだよ」


 真莉愛は吐き捨てるようにそう言い、わざと僕の肩にぶつかりながら家を出ていく。


「真莉愛ちゃん!」

「追うな、乾さん」

「でもっ」

「今日のところはこのくらいにしておこう。いっぺんにやり過ぎると、かえって逆効果だよ」


 今の真莉愛は冷静じゃない。

 一度頭を冷やさせてから、もう一度来た方がいいだろう。

 クレーム客も一度時間を開けた方が怒りも冷めて話し合いができる。

 社会人になって学んだことだ。


 それでも渋る乾さんに「また必ず一緒に説得に来るから」と言って、なんとか堪えてもらった。



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 小学生の頃遊んでいた友だちも、高校生にもなるとずいぶん変わりますよね。

 一周目の時は見落としていたこと、見て見ぬふりしたことも二周目ならば違った対応になるようです。


 お陰さまでたくさんの人に読んでもらい、また評価ポイントもたくさんいただき、ありがとうございます!


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