高校時代にタイムリープした僕は一周目と同じように穏やかに暮らしたいのに、美少女たちが全力で阻止してくる
鹿ノ倉いるか
第一章 高校時代へタイムリープ
第1話 二周目突入!
頭がフラフラする。
連日の無理な勤務が祟ったのだろう。
バイトが少ないから、店長の僕が空いたシフトを埋めなくてはいけないからだ。
深夜のあとに早朝。
少し寝たらまた夕方から勤務。
身体は疲れていても、年中無休のファミレスに休みはない。
今は夜の十二時前で、家に帰る車を運転中だ。
家に着いたら十二時半、風呂に入って寝れるのは一時くらいか?
明日もまた朝六時には起きて、七時にはレストランに入らなければならない。
そんな生活をもう二週間近く続けている。
労働基準法に引っ掛かるので、もちろんサービス残業として働いていた。
「ふぁあ……眠い……」
眠気覚ましの爆音の歌さえ子守唄のようで、一瞬意識が遠退く。
次の瞬間──
ブッブーーー!
けたたましいクラクションの音で目が覚めた。
目の前には対向車のヘッドライト。
「うわぁああああああああっ!」
ブレーキを踏み込み、出鱈目にハンドルを切った。
(くそっ! こんなところで死ねるか! 時間を巻き戻してやり直したい!)
目が開けられないくらい眩しくなり、激しい衝撃が身体を揺らした。
「──ぁあああああああ!」
大声をあげて立ち上がる。
たくさんの驚いた視線が僕に集まっていた。
「
驚いた顔をして僕の名前を呼んだのは高校時代の担任の先生だった。
「え? なんで先生が……」
よく見ると、ここは教室だった。
気付けば周りにいるのは、高校二年生の頃の同級生だ。
「佐伯、寝惚けてたんじゃね?」
誰かが言うとクラスのみんなが爆笑した。
「な、なんで……?」
訳が分からない。
僕は三十一歳で、車を運転していて、衝突事故をしていたはずだ。
それがなんで高校で授業を受けているんだ!?
……もしかしてこれは死後の世界?
いや、どう見ても高校の教室だ。
夢なのか?
もう卒業して十年以上経つのに、なぜこんな夢を見てるのだろう?
授業が終わると親友の
その顔はずいぶん若く、まだ少しあどけなさが残る顔だ。
「佐伯くん、さっきのなに? マジでウケた」
「ごめん。なんか寝惚けてたっぽい」
「勉強しすぎで寝不足なんじゃない?」
「いや、まぁ、うん」
勉強ではなくて残業のしすぎなんだけど、さすがにそうは言えなかった。
そっと壁にかけられたカレンダーを見る。
やはり間違いない。
なぜだか分からないが、僕は高校時代にタイムリープしてしまっているみたいだ。
「二周目……」
「なに?」
「い、いや。なんでもないよ」
不思議そうな顔をする裕太くんに、作り笑顔をしてごまかす。
こうして唐突に、僕の二周目の高校二年生が始まった。
────
──
様子を見るように一日を過ごしたが、僕以外の全員が何事もなく普通に生活をしていた。
僕がタイムリープしたことは誰にも気付かれていない。
確かに事故る寸前、出来ることなら時間を巻き戻してやり直したいとは思った。
けれどこれはいくらなんでも戻りすぎだ。
一日前くらいでよかった。
とにかく二周目も可能な限り一周目と同じように過ごそう
そう心に誓う。
わずかな行動の違いで未来が変わってしまうかもしれないからだ。
俗に言う『バタフライエフェクト』というやつだ。
一周目の僕の職場は確かに大変だったけど、やりがいは感じていた。
それに色んな人と出会い、友達にも囲まれ、奇跡的に結婚まで出来た。
地味でちっぽけながらも、僕は僕の人生に満足していたのだ。
それが全部やり直しになってしまっただなんて、あんまりな話である。
人生をやり直すのであれば、僕はもう一度同じように過ごしたい。
つまらないと思われるかもしれないが、それが僕という人間なのだ。
手のひらに収まる程度のしあわせでいい。
あまり目立つことなく、静かに、でも確かにしあわせだと実感して生きたい。
いつの間にか教室は僕一人になっていた。
脳内を整理しているうちに、ずいぶんと時間が経過してしまったみたいだ。
西日が差し込み、机の天板に反射して眩しい。
「今日って何日だっけ?」
スマホではない、懐かしの二つ折りパカパカフォンで確認すると五月二十五日だった。
ザワッ……
胸がざわついた。
(この日って確か……)
古い記憶が甦って胸が疼く。
五月二十五日はクラスメイトであり、僕の初恋の相手である
当時の僕は空音さんに誕生日プレゼントを買っていたが渡せなかった。
彼女の家に行って渡そうかと考えたのだけど、結局やめた。
そのことを僕はずっと後悔している。
なぜならその日、彼女は交通事故で死んでしまったからだ。
もし僕が会いに行っていたら、タイムラグが生じて死ななかったかもしれない。
たとえその場で僕がフラれたとしても、時間のズレが生じて不幸な事故は避けられた。
時計を見ると午後四時半。
事故は午後七時半だったはずだ。
いまなら間に合う。
まだ彼女はこの時点では生きている。
僕は鞄を持って慌てて教室を飛び出し、昇降口で靴に履き替えた。
校舎を出ると外はどんよりと暗い。
昼間の晴天が嘘のような曇天である。
一周目と同じだ。
あの日も突然の雨が降り、それを言い訳にプレゼントを渡しに行くのをやめたのだ。
同じ失敗は二度繰り返さない。
時間にはまだまだ余裕があるが、僕はまだ起きていない事故現場へと走り出していた。
────────────────────
皆さん、こんにちは。
久々のタイムリープものです。
でもラブコメでタイムリープものを書くのははじめてのことです。
人生をやり直せたら、そう思ったことありますでしょうか?
私は何度もあります。
10連ガチャ八回引いて当てられなかった自分に『深追いせずにやめておけ』と言ってやりたいです。
すごく気に入った服を衝動買いした自分に、数ヵ月後バーゲンで半額になると教えてあげたい。ついでにあんまり似合わなくて着なくなることも。
本作主人公の佐伯くんは、やり直したいことはありません。
同じように過ごし、同じ人生をなぞりたいと願ってます。
果たして佐伯くんは平穏無事に二周目の人生を送れるのでしょうか?
お楽しみに!
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