第二章バタフライ、大きく羽ばたく
第12話 図書委員の後輩、荏原笑未
「真莉愛ちゃーん。一緒に帰ろ」
「なんだよ、その言い方。小学生かよ」
放課後になると、うちのクラスに乾さんがやってきて、真莉愛を誘って下校していった。
幼馴染みが学校に戻ってきてくれて、乾さんは本当に嬉しそうだった。
真莉愛も照れているけど、まんざらでもなさそうだ。
一周目では僕と乾さんも希薄な関係だったが、今回の件ですっかり仲良くなった。
まあ元々幼馴染みなんだから仲良くなったとしても、僕の未来に大きな影響はないだろう。
「ねえ佐伯くん」
教室を出ていく二人の後ろ姿を見ていると、空音さんがニコニコしながらやって来た。
「ん、なに?」
「もしかしてその怪我って真莉愛ちゃんが学校に来たことと関係ある?」
空音さんは周りに聞こえないようこそっと耳打ちで訊ねてくる。
いきなり核心をついてきて、ちょっと驚いた。
「なんで分かったの?」
「やっぱり。さすが佐伯くん。真莉愛ちゃんのことも救ったんだね」
尊敬のこもった目で見られて恥ずかしくなる。
「救ったなんて大袈裟だよ。僕は学校に来て欲しいとお願いしただけ。登校してきたのは真莉愛の努力だから」
「そういう言い方がまた佐伯くんのいいところだよねー」
「だから違うって」
「うんうん。分かってる。細かいことは聞かないよ」
空音さんはニマニマ笑って頷いている。
本当に分かっているのか不安になるリアクションだ。
「それはそうと、空音さんにお願いがあるんだけど」
「なに? 佐伯くんのお願いならなんでも聞くよ。あ、エッチなのはダメだけど」
「そんなこと頼まないよ」
「うそうそ。冗談だよ」
空音さんはたまにこうやって僕をからかってくる。
そこがまた可愛いんだけど。
「真莉愛は久々に学校に来て色々と大変だと思うんだ。よかったらでいいんだけど仲良くしてあげてくれない?」
「なぁんだ、そんなこと? もちろんだよ。ていうか私も仲良くなりたいから今日も何回か話しかけたんだよ」
「へぇ。そうなんだ。さすが空音さん」
きっと一人でいるところを見て、気を遣ったんだろう。
空音さんは本当に優しい人である。
空音さんに一緒に帰ろうと誘われたが、今日は図書委員の当番の日なので断った。
二周目に入ってはじめての図書委員だ。
実は自分が図書委員だったということを忘れていたので、何回か無断で欠席してしまっている。
先生に注意されて思い出した次第だ。
図書室に入るとカウンターに座っていた
「あ、ようやく来た、幽霊図書委員先輩」
ショートヘアで前髪が長いという独特のヘアスタイルは一周目と同じだ。
丸い目と不釣り合いな細長い眼鏡も変わらない。
ちなみに女子なのに一人称が『ボク』という変わった奴だ。
「ごめん。最近ちょっとバタバタしてて」
「許さない。以後バタバタを慎むように」
一年の後輩の癖に生意気な感じなのも変わらない。
一周目の僕は、小峰さんとこの荏原だけが女子の友だちだった。
「なに読んでるの?」
隣に座って本を覗き込むと体で隠される。
「ふつう女子にそれ訊きます?」
「訊くと思うけど?」
別に隠すことでもないし、ましてや図書委員なら本の話は普通である。
荏原は「はぁ」とため息をついて本を見せてくる。
「ボクが読んでいるのはエグめのBLです。攻めが知的な生徒会長で、受けがバスケ部の長身エース。はじめはノンケなバスケ部エースを──」
「ストップ。詳細な内容まではいいや」
「でしょ? だから女子になに読んでるかなんて訊くもんじゃないんです」
「荏原が特殊なだけだろ」
「そうかなー?」
彼女はいわゆる腐女子である。
本だけにとどまらず、脳内で色んな生徒のカップリングをしているそうだ。
怖いので僕は誰とカップルなのかは訊いたことがない。
図書室は今日も僕たち二人しかいない。
自習室と化している学校もあるそうだが、うちの学校には自習室というものが別に設けられているため、わざわざここで自習する人はいないのだ。
「ていうか先輩、すごい怪我してません?」
「気付くの遅っ」
「ボクシング部にでも入部したとか?」
「違う。まあ色々あってな」
「なるほど。了解です」
「すごい興味なさげだね」
なぜだか知らないけれど、荏原とは気軽に話せる。
女性と意識してないというのもあるのだろうけど、波長が合うのかもしれない。
それに他人のことにあれこれ首を突っ込んでこないところも好感が持てる。
空音さんが亡くなってしまって落ち込んでいるときも、荏原はなにも訊いてこなかった。
それがなんだかとてもありがたかったのをよく覚えている。
「先輩、誰も来ないしモンクエしましょうよ」
荏原が鞄から携帯ゲーム機を取り出してニヤリと笑う。
モンクエとはハンティングアクションゲームで、この当時大流行していた。
この頃はスマホでゲームをするのではなく、こうした携帯ゲーム機でしていたものだ。
荏原とはよく図書委員をサボってゲームをしていた。
「あ、ごめん。家に忘れた」
「はぁあ? たるんでますよ。図書委員をなんだと思ってるんですか」
「お前こそなんだと思ってるんだよ」
いい加減な奴で適当なんだけど、なんか憎めない。
荏原だけは一周目と変わりがなくて、ちょっとだけホッとした。
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ウザ後輩の荏原ちゃん。
でも佐伯くんもなんだかんだ彼女に癒されてます。
腐女子ちゃんならハーレム要員になる心配もないはず!?
そしてものすごい数の★レビューありがとうございます!
あまりにたくさんいれてもらえたのでビックリしました。
本当にありがとうございます!
ものすごくエネルギーを充填させてもらえました!
これからも全力で突っ走ります!
今後ともよろしくお願いいたします!
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