第11話 勇気ある行動
僕は二人に支えられながら電車に乗って家路につく。
一応顔を洗って血などは流したけど、周りからじろじろ見られた。
殴られてよほどひどい顔をしているのだろう。
「その顔のまま帰るつもりかよ?」
最寄駅に降りたとき、真莉愛がそう言った。
「確かにこのまま帰ったら親が腰抜かすよな」
「うちで治療してやるから来いよ」
そう言うと真莉愛はさっさと歩き出す。
僕と乾さんは声を出さずに笑いあって、その後をついていく。
真莉愛のお母さんが経営する『スナックごめんネ』は意外と常連客のついているようで、階下からは賑やかなカラオケの声と手拍子が聞こえてきた。
「痛たたたっ! もう少し優しくして」
「ご、ごめんなさい」
意外にも乾さんは傷の手当てが下手くそで、もっと意外なことに真莉愛はずいぶんと手慣れていた。
「ずいぶんと上手なんだな」
「まあアイツらよく喧嘩するから、その手当てしてたらそのうち上手くなった」
「そうだ! そんなに手当てが上手なら、真莉愛ちゃんは看護師さんになったらいいんじゃないでしょうか?」
乾さんがそう言うと真莉愛は鼻で笑った。
「そんな簡単になれるわけないじゃん。ああいうのは難しい試験とかあるし」
「大丈夫。真莉愛ちゃんならなれますよ、きっと」
「簡単に言うな」
愉快そうに真莉愛が笑う。
彼女の笑顔を見るのは久し振りだった。
取り敢えず少しは心を開いてくれたようだ。
しかしまだ問題はある。
訊きづらいが、逃げずにきちんと向き合わなくてはいけない。
「それで真莉愛、その……お腹の方はどうなんだ?」
「腹? 別に空いてないけど」
「いや、そうじゃなくて……ほら、なんていうか……お腹に赤ちゃんとか、いないのか?」
回りくどくても仕方ないのでストレートに訊く。
真莉愛の顔はきょとんとしたのち、みるみる怒りで赤くなっていった。
「はぁ!? ふざけんな! 人をなんだと思ってんだよ!」
「ごめんっ! ちょっと心配になって」
「そんなことあるわけないじゃんっ! てかあたしはまだ処女だしっ!」
言った後で真莉愛は『しまった』という顔になる。
「あーそうなんですね。よかったぁ。私と一緒です」
乾さんがホッとした顔をすると、真莉愛は「なにが『よかった』んだよ」とあきれ笑いを浮かべる。
乾さんの天然のお陰で少し場が和んだ。
「まあ確かに『ヤらせろ』とか迫られてたけど、全部断ってたし」
真莉愛はぽそっとそう呟く。
どうやら奇跡的に間に合ったようでひと安心だ。
「あのケンジって奴に言い寄られていたのか?」
「違う。ケンジはそーいうこと言わない。むしろ他の奴らがそう言ってきたとき、庇ってくれた」
「へぇ。意外だな」
素行がいい奴には見えないが、少なくとも硬派ではあるようだ。
「それにしても佐伯って結構度胸あるんだな。あんなタトゥー入ってる奴に喧嘩売るなんて。見た目すごく気弱そうなくせして」
真莉愛は話題と空気を変えるように、笑いながら僕をからかった。
「そりゃ怖かったよ。でも僕が勇気を見せないで、一方的に真莉愛に強いるのは違うって思ったんだ」
「どういうこと?」
真莉愛はキョトンとしている。
「一度休みがちになった学校に行くというのはすごく勇気のいることだと思う。変な目で見られるんじゃないか、友だちがいなくなってるんじゃないのか、勉強についていけなくなるんじゃないのか、どうせ今から頑張っても留年じゃないか?
いろんな不安があると思う。勇気を出してそれをしろと言うのに、僕が勇気を見せなきゃ不公平だろ」
真莉愛の立場になって考え、ようやく僕が気づけたことだ。
真莉愛は顔を赤くして僕の顔を見ていた。
「そ、それくらい大したことないだろ。少年院上がりでヤバイ奴らと繋がってるタトゥー男と喧嘩する方がよっぽど勇気いるって。一人で十人と喧嘩して相手を半殺しにしたこともあるような奴だよ」
「えっ……あのケンジって人、そんなにヤバい人だったんだ……」
今更ながらに足が震えた。
でもなんとなくあの人は仕返しとかしてこなさそうな気がしていた。
しばらく三人で思い出話をしてから家に帰った。
傷だらけの僕を見て、妹とお母さんは大騒ぎだった。
ピモも心配してくれているのか、僕の足元でミャアミャア鳴いている。
しかしお父さんが「男にはやらなくてはいけない時もあるんだ」という言葉でお母さんと妹はなんとか落ち着いてくれた。
意外とお父さんにも僕の知らない経歴があるんじゃないかって、ちょっと恐ろしくなってしまった。
────
──
週明けの月曜日。
怪我は少しよくなったけど、まだ顔は腫れていた。
教室に入るとみんなからどうしたんだと心配される。
特に空音さんと小峰さんは本気で心配してくれていた。
みんなに囲まれながら教室を見回す。
しかし真莉愛の姿は見当たらなかった。
さすがにすぐに登校する決意はつかなかったのだろう。
「おい、自分から学校に来いって言っておいて無視すんな」
「え?」
隣を見ると、黒髪で化粧もほとんどしていない真莉愛が恥ずかしそうに立っていた。
爪もデコってないどころか、短く切り揃えられていた。
「真莉愛、その格好──」
「それ以上言ったら帰るからな」
真莉愛は顔を真っ赤にしながら僕を睨んでいた。
それがなんだか可愛らしくて、顔が自然とほころんだ。
「よく似合ってるよ」
「い、言うなって警告しただろ! 帰る!」
「帰るなよ。ほら、授業始まるぞ」
真莉愛は仕方なさそうに席に座る。
予想通り元々真莉愛と親しくしていた女子たちも近付いて来てなかった。
こういう展開が分かっていても、真莉愛は逃げなかった。
やっぱり僕なんかより真莉愛の方がよっぽど勇気がある。
そう思うと幼馴染みとして誇らしい気持ちにさせられた。
────────────────────
一周目から逸脱をした行為をしたけど、佐伯くんに迷いや後悔はないようですね。
次第に二周目の佐伯くんの高校生活も賑やかになってきました。
無意識ハーレムを築き上げるのも時間の問題なのでしょうか?
さて、第一章はこれにて終了!
明日から第二章突入です!
おもしろかったよー!って方は★レビュー頂けると嬉しいです!
完結してない作品に評価ってつけづらいなんて人もいるかもしれません。
でもまあ、そこはお気軽に評価ポチってくれると嬉しいです!
ブクマや★レビューで救われる作者もいます。
がんばる作者に愛の手を!
物語はもちろんまだ序盤。まだまだこれからも続きます!
次回はウザ後輩の新キャラ登場で更にややこしくなります!
この後輩ちゃんら私がこの作品で一番好きなキャラです!
第二章もよろしくお願いいたします!
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