一章・試練
白獅子隊の試練
第1話 神々の対話・主人公の目覚め
「この物語、もとい運命は。一なる結末へと向かっている」
灰色の空間は地面も空も無く、ただ虚しく、だが満ち足りている。
「ろくでもない世界、アドニスに転生した
男性の声と女性の声が混じり合った不思議な声は淡々と言葉を繋げるが、腹の中ではどこか楽しんでいるようにも思える。
「運命とは巡り合わせ。その実、神というのは巡り巡ってきっかけを与えているだけで、それを如何様にするかはその人物次第なのだ」
含み笑いを何もない空間に響かせ、声の主は一息ついた。
「我が名はノチェロ。高橋茜をアドニスに転生させ、悪い異能者を倒すよう伝えた。力の神カクタスは小野寺忍を、知識の神ラスティは和田巧を。我ら神の悲願は、我らの世界を守り、栄えさせる。ただそれだけなのだ」
太陽の光が差し込むと同時に灰色の世界に雲一つない青空が広がっていき、反対の方では三日月が現れて夜の星空を広げる。空が現れ、だが地は灰色のまま。
「俺が呼んだ小野寺忍に任せておけばいいんだ。言っちゃあなんだが、高橋茜だとか和田巧だとかはしょせん、あれの引き立て役に過ぎん」
力強い男性の声。太陽がそう言って高らかに笑うと月が咳払いを挟み中世的な声を鳴らす。
「貴様・・・あんな出来損ないを呼んでおいて何を言うか。そもそも、ノチェロの呼びかけさえなければ、和田巧など転生させておらん」
「負け犬の遠吠えとはこの事か。ラスティ、そういえばお前が呼ぶ者達は・・どこか捻くれてる奴が多いな」
「駄犬が・・貴様の呼ぶ者達は思慮に欠ける」
唸り声を上げる太陽と月はしばらく互いを睨み合っていたが、ふと、声を止めた。
「ノチェロ。お前が呼んだのはこれで3人目だったな」
「1人目は3凶となった者。2人目は3凶を倒すために呼んだ破滅願望持ち、我らも呼びかけに応じてそれぞれ転生させたが・・あれは最早人とは言えん」
「せっかく異能を授けたのに、異能を発動させれば死んでしまうのだからな」
カクタスとラスティに詰められても、ノチェロは沈黙のままだった。
「・・のぉ、今回は何を狙っている」
「是非とも聞きたいな」
しばしの沈黙の後、灰色の空間は低く笑った。
「言っただろう?互いにこの世界を思い、ろくでもない人間を転生させよと。それで私は悪い異能者を倒すよう高橋茜に伝えたのだ。それは、カクタスもノチェロも同じだろう?」
太陽と月は、問い掛けに応じず霧散するように消えていった。
まるで動き方を知らない石像のように、ぎこちなく重々しい仕草で高橋茜は体を起こした。
正確には寝た姿勢から上体を起こそうとしたが、肩を少し浮かせただけだった。
(ん・・・?なに、コレ)
朧な意識の中、自分が置かれている状況を整理しようと頭を働かせるが、泥のように緩慢な思考では時間が掛かる。
「おっ?動いた・・動いたのか?」
籠って聞こえる男性の声を、茜は知らない。低くてしわがれた声の主が、のそのそと足音を立ててこちらにやって来る。
(・・・・誰だコイツ)
ぬっと視界の横から現れたのは、大きな鼻にもじゃもじゃの髭を蓄えた中年男性。
「おーい、起きたのかー?なんか食うかー」
「嗤え」
「・・・へぁ?」
「マスカッ!」
加えて男性の息は酒臭く、体は土の臭い。アドニスの世界に転生させられたとはいえ、女子高生の彼女からすると彼の臭いは嫌悪に値するものだった。
空間に亀裂を走らせて割って出て来たマスカを使い、茜は素早く白炎をもって周囲一帯を吹き飛ばした。
「えっ!今のなんの音!?」
「あー・・忍?」
「多分それで当たってるでニコラさん。
春の温かな風を浴び、森の中に流れる川のほとりで魚を捕まえていた忍とニコラが沈痛な面持ちで溜息を吐く。何故2人がそうするのか、
「はよう戻るで、ターキーさんが死ぬかもしれん」
「・・なるほど。では戻ろうか」
後ろから籠った女性の声がして、今度は3人揃って顔を背ける。
「どうした、行くぞ」
狐を模した兜、軽装な白い衣服には金の刺繍、肩や肘などの関節部には白銀の鎧。腰マントを揺らし、ショート丈のジャケットを着た女性はピンクの長髪を揺らして優雅に歩き出す。
「言われんでも行くわ」
「忍・・」
「なんやニコラさん、アイツの肩持つんか?」
後ろで言い合う2人を睨むのは、女性のジャケットに刺繍された雄々しい白い獅子。
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